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Himuro Yoshiteru

Himuro Yoshiteru

Our Turn, Anytime

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三田 格   Mar 26,2012 UP

 ジョセフ・ナッシングワールズ・エンド・ガールフレンドと同世代のブレイクビート・メイカーによる7作目は配信(と限定カセット)だけのリリースとなった。〈リフレックス〉や〈プラネット・ミュー〉の子分みたいなレーベルから98年にデビューし(パッケージには福岡の小さな町からやってきたごく普通の男とかなんとか書いてあった)、世界中の様々なレーベルと、日本では〈ファイル〉から4作目、〈マーダー・チャンネル〉から5作目と来て、DJオリーヴ・オイルのレーベルからは初となる(だんだんシフトが日本に寄ってきているということか)。

 ジョン・ピール・セッションにも出演していて、遊び心が豊富でジャズと高速ブレイクビーツを絡ませたら右に出る者はいないとか、海外での評価は初期の『クリアー・ウイズアウト・アイテムズ』がもっとも高いようだけれど、未聴なので、ダブステップを取り入れるようになった最近のものと比較すると、ジャズ・ベースからはじまり、全体に跳ねるようなファンク・ビートを強調した『ヒア・アンド・ゼア』とはだいぶ様相を異にし、『アワー・タウン、エニータイム』は実に思わせぶりなムードで幕を開ける。そして、半分ぐらいの曲では重い腰をゆっくりと回転させるような官能的で、簡単にいえば黒っぽいビートに突き進んでいく。もしかすると同世代のブレイクビート・メイカーたちとは接点が薄くなりつつあり、表面的な派手さもそれほどわかりやすいかたちでは出てこなくなっているので、こうなるとカール・クレイグやヨーロッパのデトロイト・フォロワーに近い部分が今後のスタイルとなっていくのかもしれない。エイフェックス・ツインとジャズというテーマは、なぜか、三毛猫ホームレスのヒロニカ秘宝感の佐藤えりかなど、日本では多発しやすいテーマなのかも知れず、あるようでなかった融合点がここでは聴くことができるのではないだろうか。もちろん、従来通りの派手なブレイクビーツも力を失っているわけではなく、ビートが与える説得力が増している結果だということで。

 アース・ノー・マッドフラグメントなど、日本のヒップホップが好調ならば、それらのビートメイカーが波に乗らないわけがなく、なぜかフランスのネット・レーベルがその辺りをコンパイル(しかも、それがそのレーベルにとって初のフィジカル・リリースとは?)。

 よくわからないけれど、ネットに上がっていた日本人の音源をフランス人があれこれと探索した結果、全17人、22曲の構成と決めたようで、その基準はよくわからない(そのうち二木信が取材してくるでしょう)。しかし、外国の耳を経由した把握の仕方はそれだけで示唆的で、まずは単純に構成力があって聴き応えがある。テンポがよく、何度も聴いてしまうし、聴くたびに発見がある......って、普通のことを書いてしまった。

 可能な限り紹介すると、スカしたオープニングに続いて冒頭からもっさりと重く響くイル・ジ・エッセンスはロー・ファイ・クォンターズの名義でもリリースがあり(未聴)、四角四面を逆手にとったようなジャジムはどこかファニーな感触がとてもいい。もっと聴きたい。『ディスコトピア』にもフィーチャーされていたブンは二木信がいま、もっとも夢中になっているルーキーで、ヒムロと同じく〈オイル・ワークス〉からもリリースがあるダイナミックな展開(全体のマスタリングも彼がやってるらしい)。イルムラと組んだアグレッシヴなラップ・ナンバーも続けて収録されている。

 バグシードはウィズ・カリファ(紙エレキング2号P99)とのあいだでひと悶着あったばかりで、簡単にいえば230万人がアクセスしたというカリファのミックス・テープ・サイトにバグシードの曲が使われていたにもかかわらず、クレジットがドープ・クチュールというL.A.のストリート・ブランドの名義となっており、当のデザイナー・ブランドも自分たちの名前が使われていることに戸惑いを感じ、ツイッターなどで、この曲はバグシードのものだと明言しているというもの(http://bmr.jp/news/detail/0000012861.html)。その後、どうなったかは知らないけれど、ここに収録されている曲はなるほどカリファが好きそうなスモーカーズ・ブレイクビート。続くブドリは大袈裟にいうとフライング・ロータスとベイシック・チャンネルを同時に聴いているような質感がかなりよく、アルバムはないのかなーと検索をかけたら、近所にある喫茶店が出てきた(は!)。いまとなっては少し懐かしいカット・アップ・スタイルを聴かせるリピート・パターンによるリミックスも収録され、ブンによるリピート・パターンのリミックスもなんといっていいのかわからない奇妙な仕上がり。

 マインド・タッチによるモンド風の小品が折り返し地点を明確にし、このなかでは唯一、フルで(これもまた〈オイル・ワークス〉からの)アルバムを聴いたことがあるイチロー.も、同じような意味で変わった感覚を楽しませてくれる(この人はヘン!)。RLPが少しとぼけた風味を出したと思ったら、一転して、AZによる重いけれど明るく爽快なビートへと続き、クロージング・トラックは、このところダブステップにスタイルを変えたというKKによる濃密なダーク・ファンタジー。なんという充実作だろうか。

 ここには日本だから......という感じはまったくない。最近でいえば、L.A.の『ロウ・エンド・セオリー・ジャパン・コンピレイション 2012』やデトロイトの『ビッグ3』とも互角だし、勝っている部分だってあると思える。それこそ同じフランスでTTCやラ・コウションなどを集めたアンダーグラウンド・ヒップ・ホップのコンピレイション『プロジェット・ケイオス』が11年前にリリースされた時、何かが起きるのではないかとそわそわしてしまったことを思い出してしまった。

 そわそわ、そわそわ......

三田 格