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三田 格   May 16,2012 UP

 アルバム・タイトルとは別に大きくデザインされている文字は「ですよね?」と訳すことができる。イースト・エンド×ユリ風に「だよね?」でも、少し丁寧に「でしょう?」でもいいだろう。何かに対して同意を求めている。

 何に?

 「ロックしていること」ではないかと思われる。ローリング・ストーンズやヴェルヴェット・アンダーグラウンドを適当な因数に分解して再合成したサウンドからは、これしかないという思いが感じられる。残念ながら僕にはその思いは少ししか共有できないけれど、ロックしかないと思っているリスナーは強く同意してあげるといい。もしも、この世にロック・ミュージックしかないのであれば、このアルバムはよくできた作品だと思うから。

 昨年は「ロックは死んだ」33回忌だった。ジョニー・ロットンはそのように言い放って、1978年にセックス・ピストルズから脱退し、自分の名前も変えた(そして、PiLを始動させる......そう、PiLが復活するのは2年早かった。仏教徒じゃないんだから当たり前か)。

 スピリチュアライズドは紛れもなくロックしている。『ロッキン・オン』風にいえば......掛け値なしにロックの王道を爆走している。魂が叫んじゃったり、人生とか光とか明日が大変なことになっている感じだろうか(最近の『ロッキン・オン』は違うのかな? 経済とか論じてたらどうしよう......)。とはいえ、ジミ・ヘンドリクスとルー・リードが揃って婚姻届に判を押したようなタイトルの"ヘイ・ジェーン"からいきなり弾けまくりで、途中で一回、事故を起こしたと思ったらクラウトロックになって曲は蘇ってくる。ラ・ドュッセルドルフ"ドュッセルドルフ"で飛行機が墜落しても、また、何事もなかったように飛んでいくあたりを思わせる。さすが、一度は死に掛けた男である。引用する場所が違う。一転して"リトル・ガール"では情緒的なフォーク・ロック、さらにメロトロン......じゃないと思うけど、プロコル・ハルムをバックにピーター・ペレットが渋い喉を聞かせているようなサイケデリック・ナンバーと、ある種のロック・ページェントが続く。なんというか、自分がどんどん古い男になっていく気がする。なにがダブステップだ。なにがインテリジェント・ブラック・メタルだ。やっぱ、ロックンロールだろう。だよね?

 「ユー・ゲット・ワット・ユー・ディザーブ」のアウトロはなかなかいい。少しばかりスペースメン3のことを思い出せるからである。続く「トゥー・レイト」ではそうはいかない。思い出すのはブリティッシュ・ロックがパンクに蹴散らされる前のこと。「ヘッディン・フォー・ザ・トップ・ナウ」でピアノが連打されるとエルトン・ジョンが映画『トミー』で10メートルぐらいあるブーツを履いていたことを思い出す。授業をサボって初めてひとりで観にいった洋画だった。ティナ・ターナーが全身から血を抜かれるシーン。TVから吹き出るゲロがアン・マーグレットを呑み込むシーン。教祖に扮したエリック・クラプトンの足元でアーサー・ブラウンがただひたすら蠢いているシーン。それらはみなワイルドで「ロック」だったけれど、僕の人生観とか、タマCとかは揺すぶられなかった。『タワーリング・インフェルノ』や『ロッキー』といった映画と同じ娯楽でしかなかった。そう、それがそもそもスピリチュアライズドが『レイザー・ガイデッド・メロディーズ』でデビューした時からの違和感だった。ポカホーンティッドやダブル・レオパードといったゼロ年代のドローン・バンドからそれぞれベスト・コーストやエンドレス・ブギーといったロック回帰も起きたわけだから、サイケデリック・ロックを追求していたスペースメン3からスピリチュアライズドが派生してはいけないとは言わない。しかし、僕のまわりにソニック・ブームの熱心なファンは腐るほどいても、ジェイスン・ピアースに夢中だという人がまったく見当たらないように、スペースメン3のサウンドを形作っていた基礎の方にシフトしたサウンドはやはりスリリングとは言いがたく、娯楽以上のものにはなってくれない。そう、エンターテイメントとしては本当に素晴らしい。"メアリー"から"ライフ・イズ・ア・プロブレム"への流れなんて、なにひとつ文句はないではないか。......ですよね?

 チャド・パースンズとニコラス・ロングウォースがこれまでにリリースしてきた3本のカセットからウイアード・フォレストが独自に編集したコンピレイション『オブジェクト・パーマネンス』は、スピリチュアライズドよりもスペースメン3に近く位置し、まるでゼロ年代のUSドローンからサイケデリック・ロックを捻り出そうとするダイナミズムの交差点に立っているという錯覚を与えてくれる。彼らはそれをバーニング・スター・コアやレリジャス・ナイヴスとは正反対にポップ・ミュージックとして展開しようとする意欲まで見せてくれる。こんなことはトークディモニックにも、インフィナイト・ライト・リミテッドにも、ましてやダイアモンド・グロスにもできなかった。ポスト・クラシカルへ舵を切ってしまったファック・ボタンズも論外だし、エメラルズやマウンテンズが失ってしまったハードさをどこまで持続させることができるのか。USドローン・ヴァージョンのスペースメン3だといえる"ポーター"を聴きながら、僕は不安と期待をいつしか天秤にかけている。ジョニー・ロットンは「ロックは死んだ」と言い放ったかもしれない。しかし、誰もまだ「サイケは死んだ」とは言っていない(僕は聞いたことがない)。そして、"クラッシュド・トゥ・ビッツ"がまたしても曲がりくねった奇妙なヴィジョンへと僕を誘い込む。

三田 格