Home > Reviews > Album Reviews > Reptar- Body Faucet
レプターはちっともクールではない。新しいところもない。それどころかほとんどの人にはヴァンパイア・ウィークエンドのパクリとしか聴こえないだろうし、『ガーディアン』のレヴューなどは「めちゃくちゃで何がしたいのかわからないし、全曲がどっかからの借り物で、無理して"変わり者感"を出したがっていて、吠えれば吠えるほど青くささが露呈するもはやただの中二」(意訳)ぐらいの言いようで目もあてられない。では実際のところどうかというとまあそのとおりというところもあって、ヴァンパイア・ウィークエンドの軽やかにひるがえる知性や、上品に抑制されたポップ・センス、典雅なビート感覚といったものが、ほぼすべて「ダンス・ロック」という言葉の粗雑さそのままに大味なディスコ化を施されたインディ・ポップへと矮小化されている。パッション・ピットと比較されるエレクトロニックなプロダクションは、チルウェイヴやここ最近のインディ・ダンスを通過した耳にはファットすぎてしんどいだろう。〈ラッキー・ナンバー〉自体、キースやセヴンティーン・エヴェーグリーンなど良質なバンドを抱えるものの、やはり一時代を隔してしまっている感がありふるさが否めない(もしかするとキースのつづきをUSインディのフィールドに夢みたのかもしれない)。満身創痍で、おまけに『ピッチフォーク』でも得点3.0と逆選がかけられている。いいとこなしだ。
だが、けっして味がまずいのではない。ときには油でギトギトのポテト・フライも食べたいと思う。味が濃くて、ファスト・フード的ではあるが、だからこそおいしいというものがある。げんに筆者はこの「合法なダウンロードも取り締まるしかない」かもしれない音楽不況下で、お金を出して本作を聴いている。すくなくともレプターの「粗悪さ」にはそのくらいの強度がある。アセンズの4人組、2008年結成、このアルバムがデビュー・フルとなる。シングル・リリースされた"セバスチャン"や"イソプレン・バス""オリフィス・オリガミ"など、くっきりとしたフックにインフレするエモーション、感情の幅がせまくてはっきりとしているから、テレビアニメやテレビドラマと相性がいいかもしれない。"ハウスボート・ベイビーズ""サンキュー・グリース370b"など音数の多いMTVポップスも同様だ。登場人物やキャラクターが、めまぐるしく現れては消え、忘れがたい表情をのこしていく......OPのスピード感やEDの叙情性を容れるのに、とても適したフォームかもしれない。"スリー・シャイニング・サンズ"や"シティ・オブ・サンズ"はここぞというシーンを彩る叙情的な挿入曲となるだろう。80'Sポップスの消費性をオマージュし、批評的に取り込む作品は多いが、レプターは単純明快に消費的で、それでいてはらはらと心をたきつけてくるところがすがすがしくもある。
2010年をまたいでからは、インディ・ミュージックにおいては粗食志向と入眠(ヒプナゴジック)音楽への傾向がいっそう加速している印象がある。ファットなものはあまり好まれていない。筆者はこの傾向をとても快く思う人間のひとりだ。だが、若い心と身体はもっと高カロリーなものを欲しないのかと、少しばかり不思議にも思ってきた。アニマル・コレクティヴをオーヴァーグラウンドなポップへと肉づけしたベン・アレンが、この作品の背後にもひかえている。アニコレの新作が騒音にみちて動的なものであることもふくめ、もう少し注意を払ってもよいのではないだろうか。
橋元優歩