ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代──あるDJの証言
  2. Arab Strap - Half-Told Tales | アラブ・ストラップ
  3. Protomartyr - Hotel Usona | プロトマーター
  4. METHOD MOTEL - @名古屋・栄CENTRAL
  5. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  6. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  7. ゲーセン波乱万丈の100年史
  8. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  9. interview with Adrian Sherwood and Nightmares On Wax UKダブ・“トーク”・セッション | ――エイドリアン・シャーウッド×ナイトメアズ・オン・ワックス特別対談
  10. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  11. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  12. Marcellus Pittman ──デトロイト・ハウス珠玉の逸材、マーセラス・ピットマンの来日ツアーが開催
  13. KING GIDDRA ──キング・ギドラの7インチが3枚同時リリース、DJ KENSEI、DJ KIYO、INOVADERによるリミックス
  14. The Alchemist ──現代USヒップホップのキーパースン、ジ・アルケミストが来日
  15. Helen - Linda's Head | ヘレン
  16. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  17. Boy Harsher - GET MEAN | ボーイ・ハーシャー
  18. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  19. 野田 努
  20. Columns 9月のジャズ Jazz in September 2026

Home >  Reviews >  Album Reviews > Orphan Fairytale- Comets Come Alive

Orphan Fairytale

Orphan Fairytale

Comets Come Alive

Blackest Rainbow

三田 格   Oct 03,2012 UP

 この6月4日に急逝したジョニー吉長さんに非公式でインタヴューをしたときのこと。僕がまだ何も質問していないのに、彼がまず「ラヴ・チャイルドって知ってるか?」と訊くので、僕は平静を装いつつ「知っています」と答えた。シュープリームスのアルバム・タイトルに興味が湧いて意味を調べたことがあったのである。ラヴ・チャイルド=私生児。ジョニーさんは「なんてヒドい言い方なんだろう」と話をつづけ、彼の父親が日本に来ていた米兵で、物心ついた頃からアイデンティティに悩みつづけたことを話してくれた。ジョニーさんは途中で何度も声をつまらせた。その夜は僕も覚悟を決めて話をききつづけた。きくしかなかった。ミュージシャンとしてひとつの答えを出そうと、『ジョニー・セカンド』(78年)で"木曽節"を取り上げ、自分は日本人なんだという思いをそれに込めたつもりが、故・中村とうように酷評され、そのときの怒りがまだ消えないとも話していた。言葉数は少なかったけれど、その気持ちはダイレクトに伝わってきた。北沢タウンホールで行われたお葬式で、祭壇に組まれたドラム・セットを見たとき、僕は当然のことながら、その口調を思い出さざるを得なかった。いつもはとてもジェントルなジョニーさんがそのときだけは汚い言葉を口にした。

 グループ・サウンズから脱線していくようにして日本にロック・ミュージックが確立していくとき、ジョニー吉長のようなラヴ・チャイルドたちは少なからず役割を果たしている。そのような歴史性について系統だった研究はなされていないと思うけれど、彼らがやってきたことの上にバンド・ブームが花開いたことは誰にも否定できないし、それなりの敬意は払われていいはずである。そのような人たちに僕が接したり、話を聴かせてもらう機会を持つことができたのはすべて忌野清志郎さんのおかげであり、清志郎がそのような人たちから愛される存在だったのも、彼自身が実の両親に育ててもらえなかったこと、そのために孤児の気持ちを歌うことができたからではないかと思う。RCサクセション"ぼくとあの娘"の歌い出しは、♪あの娘はズベ公でぼくは身なし子さ とっても似合いのふたりじゃないか~ というもので、これは公式に発表されたものよりも、『ロック画報』の付録CDで聴くことを推奨したい。太田克彦氏が70年代にジャンジャンで密かに録音していたテープから清志郎自らセレクトしたヴァージョンである(この曲の話は尽きないけれど、まずはこれまで)。

 イーファ・ファン・ドゥーレン(本名で「ドア家のイヴ」の意)による「孤児の御伽噺」というユニット名を見てやたらなことを思い出してしまった。バイオグラフィが公開されていないので彼女自身がココ・シャネルやマリリン・モンローと同じように孤児かどうかは不明だけれど、その音楽はなるほど掛け値なしにフェアリーテールである(髪型もツインテール)。『彗星は生きている』と題された(CD-Rやカセットを除くと)ソロ2作めは、どの曲も幻想的で不思議な気分を掻き立ててやまず、通して聴いているとシャガールの絵に片端から音を付けていくような作業を思わせる。ラブクラフトめいたダーク・ファンタジー。めちゃめちゃ楽しくて暗い夜。線の細いシンセ・ポップによってプログレッシヴ・ロックを再定義しながらドローンも少々という感じだろうか。紙『ele-king』でいえば6号の「エレクトロニック・レイディランド特集」と7号の「ノイズ/ドローン特集」に片足ずつ突っ込んでいるため、松村編集長によってどちらからも外されてしまうような音楽性というか。

 "最後の生きる伝説""流星群(メテオ・シャワー)""牧歌的な荒野"といった曲を聴きながら、どのようなイメージが脳内を駆け巡るのか。初めからそれは限定したくないので、個々の曲についてはとくに触れない。同じ〈ブラッケスト・レインボウ〉からフォーク・ドローンを垂れ流すイーゼングラン(『ele-king』6号P63)にも通じるところはあるものの、音作りの基本がシンセサイザーなので、なんというか、タキシードムーンからニューウェイヴの呪縛を取り去って、よりフリー・フォームに落とし込んだようなシンセーポップ・ドローンというようなものになっている。たぶん、テクスチャーを新しくしているだけでヨーロッパには古くからあるオブセッションの塗り直しであり、グルーパーやモーション・シックネスといったアメリカ勢との対比で、なんとなく新鮮に聴こえてしまう部分も少なからずではないかと思われる。アメリカではドローンが一大ムーヴメントになったかのような印象があるけれど、それは100%商業的な需給関係に左右されるからで、ジム・オルークに言わせればヨーロッパではそうした種類の音楽に国家からの援助が絶えたことはいちどもない......つねにその存在は保障されているという(社会的に見て、やらなくていいことをやっていることの意味合いがアメリカとヨーロッパではまったく違うということでしょう)。あるいは、どこか遊びというか(よく見るとデザインのそこかしこにヘビちゃんがあしらわれている)。

 程度の差こそあれ、ファンタジーにはやはり反社会性がつきまとう。スティーヴン・ミルハウザーの小説をニール・バーガーが映画化した『幻影師アイゼンハイム』ではそれが具体的な脅威となるプロセスが描かれていて、とても興味深かった(レイヴ・カルチャーが社会を揺るがせた瞬間にもきっと同じことが起きていたのだろう)。『彗星は生きている』で展開されているファンタジーはあまりにも手作り感覚で、そのような入り口に立つことがせいぜいかもしれない。それでもこれは、反社会性へと開かれた扉なのである(ドゥーレンはさらにドルフィンズ・イントゥー・ザ・フューチャーのリーフェン・マルテンスともブロッブスというユニットを展開。ドルフィンズも今年は春先にいつもとは趣向を変えた『カント・アーキペーラーゴ』をリリ-スし、フィールド・レコーディングとフリー・ジャズを組み合わせたり、なんかヘンなことになってきた......)。

三田 格