ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns 4月のジャズ Jazz in April 2024
  2. Li Yilei - NONAGE / 垂髫 | リー・イーレイ
  3. interview with Lias Saoudi(Fat White Family) ロックンロールにもはや文化的な生命力はない。中流階級のガキが繰り広げる仮装大会だ。 | リアス・サウディ(ファット・ホワイト・ファミリー)、インタヴュー
  4. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  5. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  6. The Jesus And Mary Chain - Glasgow Eyes | ジーザス・アンド・メリー・チェイン
  7. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  8. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  9. claire rousay ──近年のアンビエントにおける注目株のひとり、クレア・ラウジーの新作は〈スリル・ジョッキー〉から
  10. interview with Shabaka シャバカ・ハッチングス、フルートと尺八に活路を開く
  11. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  12. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  13. 『成功したオタク』 -
  14. Politics なぜブラック・ライヴズ・マターを批判するのか?
  15. Larry Heard ——シカゴ・ディープ・ハウスの伝説、ラリー・ハード13年ぶりに来日
  16. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  17. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  18. Free Soul ──コンピ・シリーズ30周年を記念し30種類のTシャツが発売
  19. interview with Fat White Family 彼らはインディ・ロックの救世主か?  | ファット・ホワイト・ファミリー、インタヴュー
  20. Royel Otis - Pratts & Pain | ロイエル・オーティス

Home >  Reviews >  Album Reviews > Stubborn Heart- Stubborn Heart

Stubborn Heart

Stubborn Heart

Stubborn Heart

One Little Indian/Pヴァイン

Amazon iTunes

橋元優歩   Dec 25,2012 UP

 明瞭にレディオヘッドからの影響があるが、たとえばトム・ヨークのようにちょっと面倒な内面性や自意識、あるいはジョニー・グリーンウッドの偏執的な音響感覚といったものはない。じつにスムーズでスマート、ダブステップを応用しながらジャジーかつソウルフルなヴォーカルを展開し、ジェイムス・ブレイク後のフィールドによい意味での大衆性を引き入れることに成功している。ジェシー・ウェアほど歌ものに割り切らないまでも、サブトラクトやジ・XX、ジ・インヴィジブルにはよく似た傾向を見ることができるだろう。マウント・キンビーと比較するものもいる。いずれにせよ非常にUKらしい音であり、BBCやガーディアン、NMEなどUKのマスなメディアを中心に評価される理由がよくわかる。これはあくまで大衆的なフィールドを舞台とする音である。ベッドルームや小さな小屋でかかるというよりも、テレビや街頭で聴かれるに耐える大柄なボディを持った音だ。そこを踏み間違えるとあまりピンとこないひともいるかもしれない。また、鬱々とするようでいて、パラノイアックな感性やディストピックな世界観、ブルーなヴァイブといった複雑性もない。そうしたものを風味程度にとどめるところにむしろ彼らの強さがある。「それでもおk?」という日本発の優れたリスナーズ・マナーを踏まえて臨むならば、本作は必ずや約40分間の「いいムード」を演出してくれるだろう。

 スタボーン・ハートはロンドンの2人組で、本作がデビュー・アルバムとなる。昨年に本作のハイライトでもある"ニード・サムワン"の限定シングルを出しているほかに、今年リリースのシングルがもう1枚存在している。彼らは自身の音楽を「エレクトロニック・ソウル」と呼ぶそうだが、ジャイルズ・ピーターソンに気に入られたことが本作リリースへと結びついたようだ。片割れであるルーカ・サントゥッチは90年代の初めから活動しており、コラボレーターとしてハーバートやプレイグループ、エドウィン・コリンズとの仕事も経験してきたかなりのベテランでもある。
 そつなく音を配し、なにかひとつでもバランスを崩さない、『スタボーン・ハート』のプロダクションはそのように慎重な足し算と丁寧な引き算によって作り出されている。アーティストとしてのマインドよりも、そうした仕事としての精度や職人性をよりつよく感じるだろうか。「スタボーン」というのはその意味での頑固さを指すのかもしれない。そういえば、「スタボーン・ハーツ」と複数形にしないのはなぜだろうか。ふたりの頑固者、とすればユニット名としてすっきりするようにも思うが、「スタボーン・ハート」とあえて抽象性をもたせているのは、純粋な理念としてその語を胸に抱いていたいというような思いからか。
 "インターポール"など、抑えをきかせつつドラマチックな展開を持ったダウン・テンポが聴きどころのひとつである。チルウェイヴ以降の感性もとらえつつ、それをクリアでリッチなサウンドへと練り上げているのがよくわかる。"ブロウ"のユーフォリックなアンビエントもとてもいまらしい。"スターティング・ブロック""ペネトレート"などは逆にやや古く感じられるだろう。"ヘッド・オン"の耽美的なストリングスやタイム感、あるいは"ベター・ザン・ディス"に挿入されるややヘヴィめのノイズなどは、もっと思い切った過剰さがあってもよいのではないかと思う。このあたりは好みかもしれないが、守備型のディレクションが何かを生かすとすればこれらの曲のようなやや崩れたおもしろみを持つ部分ではないだろうか。

橋元優歩