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Nils Frahm

Nils Frahm

Screws

Erased Tapes / p*dis

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橋元優歩   Jan 30,2013 UP

 ポスト・クラシカルと呼ばれるような音のなかでも、ゴンザレスとかニルス・フラームなどを個人的に敬遠しがちだったのは、なんとなく安直なイメージがあったというか、たとえばハーレクインのような具合に、聴く者の欲望にたやすく奉仕するような、あるいは聴く者の抱いている複雑な感情におおざっぱな出口を与えて思考停止させてしまうようなメロドラマ性があると決めてかかっていたからである。彼らの音楽を再生すれば、たちまちにしてわれわれは映画やドラマの主人公になることができる。目の前の生々しく面倒くさいことがらにも少し洒落たヴェールがかかる、みたいな。

 それからわたし自身が、以前は、音楽が他の何ものにもよらずに自立するものでなければならない――映像やストーリーや、聴かれる状況などに寄り添ったりおもねったりするものであってはならない――というような、驚くべき偏狭さにとらわれていた、という事情もある。音楽は生まれてしまったあとは人から独立して存在し、人を感化するものでなければならない、みたいな。
それなのに彼らの音ときたら――われわれが切ないと感じたり、苦しいと感じたり、気持ちいいと感じたり、そのすべてがまじりあったように感じたりする、言葉によっては形容できない繊細なエモーションに寄生して、そこから養分を吸い上げて成立しているように見える。何といったか、動物の死体から直接生えるあの美しい植物に似て、彼らの音使い、コード進行、旋律、アレンジ、そういったすべてが、たとえば失恋の痛みやメランコリーといった、人の心を強く支配するような気分の上に、胞子のようにとりついて根をおろし、そのメンタルをまるごと利用するように存在しているではないか、みたいな。

 いまでも半分はそう思っている。だが、この『スクリュース』を聴いてひとつ気づいたこともある。フラームの音楽はわれわれの気分を巧みに利用するが、フラーム自身はそう器用でもなさそうだということである。われわれの、切なくて苦しいけどそれが気持いい、みたいな気分を絶妙に助長し刺激しているのは、けっして技巧ではなくて、彼自身のエモーションなのだなということが感じられる。単音の旋律がつづき、伴奏にも和音があまり用いられない。ゆっくりと気持ちを押し込めていくように鍵盤が下ろされる。それがピアノ演奏というよりも歌のように聴こえ、つまりはこれはフラームの声なのだろうと感じさせる。音のつづく3分ほどのあいだは、彼自身が彼という聴き手に向けたちょっとしたなぐさめや癒しの時間なのではないか。フラームはそこで、自分に向けて二言三言のいたわりの言葉をかけているのではないか。

 フラームはこのアルバム制作の前に、事故により左指の1本に大けがを負ってしまったという。高名なピアニストに師事していたというたしかなわざを身につけた人間が、よりにもよって指を痛めるとは悲劇的な話である。医者からピアノを弾くことを止められていた彼だが、残りの9本の指で毎晩寝る前に少しずつ録音したという9曲が本作になった。2011年の『フェルト』は、ローファイなプロダクションが話題になった作品で、ラフな録音を叙情的なフィールドレコーディング作品へと転換するような、空間性を意識した方法がとられていたが、本作はそこに、夜な夜なレコーダーを回したという事実、つまり「事故後」という時間性の記録が加わることになった。そのような情報やコンセプトが加わることで、ピアノのフレーズの隙間にはさまった小さな物音までが、とてもイマジナティヴに立ち上がってくる。トラック名も泣かせる。"ド""レ""ミ""ファ""ソ""ラ""シ"の7曲を"ユー"と"ミー"がはさむ。フラーム自身をなぐさめ、いたわる音楽は、あなた......聴き手自身のなぐさめといたわりによって補完され、完成される。自覚的なのか無自覚なのか、彼自身の音楽の成り立ちを解くような趣向であって、ちょっと泣ける。

橋元優歩