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橋元優歩   Jun 26,2013 UP

 テープのときには、絶妙にテープなアートワークだった。今回ヴァイナルで出直した『サーアップ』がジャケットを変えているのは、もちろん気分の問題でもあるだろうけれど、もとのデザインが12インチにそぐわないと判断したからではないだろうか。茶目っ気のあるコラージュにはマイ・ミックステープといった趣があって、どれをとっても素晴らしい〈クラッシュ・シンボルズ〉のテープ・アートワークスを象徴している。同じコラージュとはいえ、ヴェイパーウェイヴが虚無的な態度で遠回りに世界を肯定しているのに対し、彼らのほうはずいぶんと素朴なやり方だ。

 アンハッピーバースデーはドイツの3人組。ヴィスマールという小さな町の出身で、そこのレコード屋で「ザ・レインコーツやヤング・マーブル・ジャイアンツやユニッツ」などに触れながら育ったそうだ。素敵にマイペースな話である。東京にジェシー・ルインズがいるように、ドイツにアンハッピーバースデーがいる、というところだろうか。音は驚くほど〈キャプチャード・トラックス〉、というかブランク・ドッグスの系譜で、なぜ彼らが埋もれていたシューゲイザーの発掘作業に余念がないかということにひとつの解答を与えるように、ロマンチックなシューゲイズ・ポップをポストパンクなマナーでフラクチャーしていく。シットゲイズとダークウェイヴがとても品よく出会っているように感じられるのはドイツ語のためだろうか? しかしレーベルの紹介にあるように「文字どおりのニュー・ジャーマン・ウェイヴ」とするのは早計で、かの国でそうした機運があるならともかく、おそらく彼らは〈キャプチャード・トラックス〉等の面々と同じような距離感でニューウェイヴなりシンセ・ポップなりノイエ・ドイチェ・ヴェレなりに向かいあっている。そうでなければこのシットゲイズなガレージ感やマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ジーザス・アンド・メリーチェインのようなUKインディが参照されることはないだろう。参照、というまでもなく、ただ常日頃われわれも彼らも同じような環境下で同じようなものを聴き、愛しているということに過ぎない。曲名がすべて英語なのも同様の理由であるように思われる。"グリマー"の性急なビート、"アノラック"の切なくエモーショナルなメロディは、エレクトロニックなクラウド・ナッシングスとも言えるかもしれない。ふだん「USインディ」と呼んでいるような音を、たまたまドイツのバンドがやっている、そんなところである。

 〈クラッシュ・シンボルズ〉はブラックバード・ブラックバードやミリオン・ヤングなど、チルウェイヴやベッドルーム化されたバレアリックとでも言うべき2010年代のドリーム・ポップの一端をつかまえている。そして今回ヴァイナル盤をリリースした〈レーベンスシュトラーセ〉のカタログには、サン・グリッターズやザ・ベイビーズ、スロウ・マジックなどが並ぶ。さらに今年になって出たカセットEP『クラーケン』は〈ナイト・ピープル〉から。こちらはご存知のとおりダーティ・ビーチズからラクーン、ピーキング・ライツ、ショーン・レザーなど良質なエクスペリメンタルを多数提供している。まさにヒプナゴジック/サイケデリックのエッセンスとガレージ/エレクトロニックをわたる方法とが2010年前後のモードで交差するポイントに浮かび上がった、今日のポップスの最良の成果のひとつだと言えるだろう。
 1曲、といわれれば"モーリー"だろうか、"インヴェイジョン"だろうか。"モーリー"には少しピクシーズの面影もある。人生のうちのこの27分間がとても大切な時間であるように......砂時計のような質量をともなって感じられる。
 ちなみに〈レーベンスシュトラーセ〉盤は2曲多く収録されている。

橋元優歩