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Janelle Monáe

FunkHip HopR&B

Janelle Monáe

The Electric Lady

Bad Boy Entertainment/ワーナー

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木津 毅   Sep 30,2013 UP
E王

 「戦争より愛 火種はこりごり 暴動ではなく静寂/音楽を演奏して 踊って愛し合うんだ/石を投げない 窓を割らない お尻だけ振って/激しく振って ベイビー/エレクトリック・レディ 105.5WORDを聴きながらね」

 アルバム中に何度かラジオ番組を模したインタールードで、DJがノリノリでそう告げるのが心地よくて、飛ばさずに全部聴いてしまう。ときは2719年......とするにはどこか不釣合いの、なにやらレトロなラジオ番組。ジャネール・モネイのありようが、このインタールードにとてもよく表れているように思える。すなわち、遠い未来のディストピアでも、そこで生きる人間たちはパーティをして「お尻を振って」いるに違いない......という、あっけらかんとした、しかし確信に満ちた楽観主義である。世界中から賞賛されたアフロ・フューチャリズム『ジ・アークアンドロイド』に連なる物語を持ったアルバムである『ジ・エレクトリック・レディ』においても、その舞台は階級闘争が激化するメトロポリスなのだが、そこで描かれるのは闘い以上に、パーティだ。
 ここでキャラクターとして設定された「エレクトリック・レディ」とはジャネール・モネイにとってのスーパーヒーローの象徴だそうで、ステージ上で、あるいはレコード上で彼女はつねにそんな姿で現れる。強くてキュートな、打ちひしがれた人びとを鼓舞するために颯爽と登場するヒロイン......どう考えても、ジャネール・モネイは現代における最高にクールなポップ・アイコンである。

 『ジ・アークアンドロイド』における成功は本作においてゲストを大勢呼ぶことにも繋がったようで、いきなりのプリンスからはじまり、エリカ・バドゥ、(ビヨンセの妹の)ソランジェ、ミゲル、エスペランサといった面々が集まり、このパーティを盛り上げていく(日本盤のボーナス・トラックには彼女を見出したビッグ・ボーイとシーローも登場する)。しかしながら非常に雑多な音楽ジャンルがミックスされた本作を聴いていると、ここにはもっと大勢のミュージシャンが住み着いているように錯覚する。サン・ラからファンカデリック、スティーヴィー・ワンダーからジャクソン5、ボブ・マーリーからアウトキャスト......。ファンク、ソウル、ヒップホップにジャズにロックンロール、エンニオ・モリコーネのサウンドトラックをシャッフルして平然と着こなすジャネールのアルバムは相変わらずパワフルで、色彩と生命力に満ちている。セクシーなファンク"ギヴン・エム・ホワット・ゼイ・ラヴ"でプリンスと絡めば、ミゲルとデュエットを取る"プライムタイム"ではメロウなR&Bヴォーカルを披露し、モータウン・ポップ調の"ダンス・アポカリプティック"ではファンキーに弾けてみせる。
 本作のリード・トラックとなったエリカ・バドゥとの共演ファンク・ナンバー"Q.U.E.E.N."において「あんたがそうやってドープ(麻薬)売ってる間 わたしたちはホープ(希望)を売り続けるから」とラップされるのが印象的だが、その「ホープ」を売りつける相手をモネイは決して見失わない。ネグロイドやゲイ、移民や労働者、そしてとりわけ、すべての女性たち......に"Q.U.E.E.N."は捧げられている。この曲でモネイはセクシズムに対抗するために「ガール、大丈夫よ」と自信を持って囁いてみせる。続くゴージャスなポップ・ナンバー"エレクトリック・レディ"においても同様で、ここで彼女はあらゆる「レディ」を太いベースでともに踊らせることを目論んでいる......そうして、女性たちをセクシャリティとジェンダーの束縛から解放しようとする。そして何より、それをフェミニズムと呼ぶときの「イズム」の堅苦しさを軽やかにかわすように、激しく腰をシェイクする。

 正直に告白すると、ネットなんかでジャネール・モネイの海外でのステージ・パフォーマンスを観ていると、何度となくどうしても目頭が熱くなってしまう。大勢のステージ・メンバーたちほぼ全員が演奏の合間に、いや、演奏をしながらでも踊りまくり、その中心でまるで少年のようなモネイが堂々と楽しそうに、じつに楽しそうに駆け回ってみせる。そこではひとつの理想的なコミュニティが示されており、そして彼女は人びとを楽しませることに全身で自分を捧げている。その目的をけっして見失うことがないからだ。
 ジャネール・モネイがぶち上げる歴史もジャンルもごちゃ混ぜになったパーティは、マイノリティや疎外された人びとを一堂に集め、彼らや彼女らをお互いにミックスする。彼女はたしかに差別や格差やあらゆる束縛と闘うアイコンであろうとしている......が、そこには拳も武器もなく、いかめしい教条もなく、多様性とピュアな高揚がある。アルバムのクロージング・トラック"ホワット・アン・エクスペリエンス"はラヴァーズ・ロックのスウィートネスに乗せて、こんな風に歌われる。「この世界はいつか消える運命/そして全てのパーティはいつか燃え尽きる/でも想い出たちはよみがえる、そうなのよ/不思議よね、曲と一緒に思い出したりするの」。もし未来と呼ばれるものがあるのならば、それはそんな風に生み出されていくのだと、ジャネール・モネイの音楽はわたしたちにそう信じさせてくれる。

木津 毅

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