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Machinedrum

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木津 毅   Oct 07,2013 UP

 アルーナジョージを聴いていて僕が思ったのは、ポスト・ダブステップと呼ばれるフェーズは終わりを迎えたんだろうということで、"ユア・ドラムス・ユア・ラヴ"のよくできたポップスぶりを聴いていると、もしくは、僕は行けなかったがディスクロージャーと共演したライヴの盛り上がりぶりを思えば、文字通りダブステップの「ポスト」で起こったことは、ポップへと移行し消費される段階に来たのだろうと、と(もちろん、ダブステップはEDMとしてすでに消費されている)。それ自体は決して悪いことではないと思う。表舞台でガツガツひとを踊らせるアクトもいれば、たとえばマウント・キンビーのように、まだ名前のついていないその先を目指す探求者もいるからだ。移ろうときのなかで、それでも新しいものが出てくる可能性はいつでも潜んでいる......メディアがそれにうまく名前をつけられなくても。

 そのタイミングで聴くマシーンドラムの通産10作目にして〈ニンジャチューン〉移籍後第1作となる『ヴェイパー・シティ』にはどこか、ポスト・ダブステップ時代を総括するようなムードがある。『ele-king vol.11』のインタヴューで「ポスト・ダブステップっていう呼び方はキライだ」と笑っていた彼、トラヴィス・スチュワートは優れた批評家でもあるのだろう。それは感覚的なものかもしれないが、ここからはダブステップ、ジューク、IDM、アンビエント、さらにはチルウェイヴやチル&ビーの反響も聞こえてくる。そして何よりも、それらの横断を滑らかな手つきで編集している。
 本作のコンセプトはスチュワートが夢で見たという大都市であり、トラックのそれぞれがその都市の一区画を示しているそうだが、そのこと自体が現在のエレクトロニック・ミュージック・シーンのメタファーとして機能しているようだ。ハイブリッドなアルバムだが、トラックごとにとてもよく整理されている。まず、ジュークからの影響が色濃いリード・シングル"アイズドントライ"や、オープニングの"ガンショッタ"。アブストラクト・ヒップホップの出自を思わせる"ドント・1・2・ルーズ・ユー"。ビートレスのアンビエント"ヴィジョン"。そして、スペイシーなシンセ・トリップ"シーシー"......この耽美なまでの陶酔感はアルバムのなかでもハイライトだ。抜きん出てドリーミーな"ユー・スティル・ライ"があれば、クロージング"ベイビー・イッツ・ユー"ではジェシー・ボイキンス3世の歌声によってソウルにまで分け入っていく。夢というキーワードによるサイケデリアはたしかにあるが、それらはごちゃ混ぜにならない。この都市はきちんと区分けされている。
 ここに彼自身の強い個性を発見するのはたしかに難しいかもしれない。が、特定のジャンルやムードに入り込んでしまわない慎ましさこそが、いくつもの名義を持ち、また、スキューバ主宰の〈ホットフラッシュ〉や〈プラネット・ミュー〉、〈ラッキー・ミー〉とさまざまな先鋭的なレーベルを渡ってきたスチュワートらしさと逆説的に言える部分もあるだろう。エレクトロニック・ミュージックの移り変わりの速さやジャンルの細分化は何かと好意的に見られないことが多いが、マシーンドラムの『ヴェイパー・シティ』においては、それらこそが内包されてひとつのコンセプトになっているように感じられる。そしてそれは、インターネット時代の21世紀のリスナーの感覚とスムースにシンクロしている。情報量の多さがしかし、洗練されて心地よいアルバムだ。

木津 毅