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Indie RockPost-Punk

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木津 毅   Nov 08,2013 UP

ディスコ・パンクがインになっているような気がする。と思ったのは!!!の今年の新作『スリラー』を聴いたとき……ではなく、じつを言うとファクトリー・フロアのシングルおよびそれに続くアルバムを聴いたときだが、FFがハウス全盛のUKのなかでもひときわ異彩を放っているのは、それを「パンク」とどうしても呼びたくなる乾いた攻撃性によるものだろう。10年ほど前、NYを中心としてそれをディスコやハウスの色気と繋いだのがディスコ・パンクだった。アーケイド・ファイアの新作における“リフレクター”でジェームズ・マーフィがサウンドに関与した途端、バンドにそれまでなかったセクシーさが導入されていたのはその成果であり、また、再びその時代がやってきたような予感がさせられるものである。かつてのディスコ・パンクを定義したトラックのひとつ、!!!の傑作シングル“ミー・アンド・ジュリアーニ・ダウン・バイ・ザ・スクール・ヤード(ア・トゥルー・ストーリー)”からすでに、10年経っているのだ。サイクルが一周したとしても不思議ではない。今年の〈エレクトラグライド〉にファクトリー・フロアと!!!が出演するのは、なかなか象徴的な出来事だと思う。

 とはいえ現在!!!がいる場所は、かつてと同じではない。僕のフェイヴァリット・アルバムはいまでも2007年のジャム・ファンク作『ミス・テイクス』だが、その当時の彼らの魅力であったハードコア・バンド出身ならではの汗臭さや暑苦しさを彼ら自身がかなぐり捨て、スタジオ・バンドとして洗練されたダンス・トラックを制作することを目標としたのが『スリラー』だった。アルバム・タイトルにもあるようにマイケル・ジャクソン的なR&Bの要素が注入され、その代表と言えるトラック“ワン・ボーイ/ワン・ガール”を聴いて浮かぶのは地下のライヴ・ハウスに集まる男連中の姿ではなく、ステージ上で衣装を着たファンク・バンドである。いわば、ディスコ・パンクにおけるディスコの部分を研ぎ澄ましていった過程が見える。ただいっぽうで、パンクの部分がやや見えにくくなったことが寂しく感じられもした。
 だが、その“ワン・ボーイ/ワン・ガール”をハウス・ミュージックの大物モーリス・フルトンがリミックスしたヴァージョンを聴けば、!!!が試みたことのさらなる成果が感じられる。音数を絞ったなかでブリブリ響く太いベースと軽快に鳴らされるパーカッション。サウンドが整頓されたことによる、これほど効果的なグルーヴはかつての!!!にはなかったものだ。ダンス・バンドとしての!!!の楽曲の快楽性が引き出されている。
 『R!M!X!S』は『スリラー』期のトラックのリミックスがまとめられた編集盤だが、総じてクラブ・ミュージックとして調理されており、逆流して『スリラー』のダンス・トラック集としての出来栄えの良さを証明しているように思える。ディープ・ハウス・トラックがヒットしたアンソニー・ナプレスによる“カリフォルニイェー”のミニマル・テクノ・ヴァージョンなどは、下手したら原曲以上にパンキッシュで格好いいし、〈100%シルク〉からのリリースで知られるアレックス・バーカットによる“スライド”はハードなテクノ・トラックとして否が応でも身体を揺らすだろう。面白いのはパトリック・フォードがトラックを手がけ、メイン・アトラクションズがラップする“カリフォルニイェー”で、このスクリュー感はもはやクラウド・ラップのそれである。

 かつて!!!はパーティやダンスに対する執着を“ミー・アンド・ジュリアーニ~”で「なぜだが分からないが、その魅力に抗えないもの」として表現していた。それは、ディスコやハウスに憧れたパンク・バンドによる素朴な愛の表明だったろう。が、それから10年が経ち、バンドはよくコントロールされたダンス・ミュージックを提供して、ひとを踊らせることに完全に奉仕している。それはパーティ・バンドとしての覚悟である。