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プラスティックマン、aka リッチー・ホウティンの新作アルバムが発表されると聞いて、心躍らないテクノ・ファンはいないだろう。彼がシーンにおよぼした影響は計り知れないものがある。言うまでもなく、リッチー・ホウティとはミニマル・テクノというジャンルのイノヴェイターなのだ。
1993年の、スネアロールのループと簡素なビートのみで構成された恐るべきフロア・アンセム“スパスティック”、マイク・インクの〈スタジオ・ワン〉と並、究極のミニマリズムと評されている1996年の『コンセプト1』シリーズ、膨大な量のトラックをパーツごとに分解し、ミックスすることによってDJミックスの概念を変えた『DE:9 クローサー・トゥ・ジ・エディット』……などの作品を通じて、リッチー・ホウティンは、90年代初頭からつねにフロント・ランナーとして斬新なアイデアを世に問いかけている。
リッチー・ホウティンと彼が率いるレーベル〈プラス8〉/〈マイナス〉の成功によって、歩むを止めることなく規模の拡大・発展を続けてきたミニマル・テクノは、00年代から続くリカルド・ヴォラロボス、ルチアーノといったチリ~南米勢の隆盛を経て、現在ではルーマニアを中心とする東欧シーンの台頭の時代を迎えている。ペトレ・インスピレスク、ラドゥー、クリスティ・コンズといったアーティストが作り出す生々しいテクスチャー、執拗にエディットされたウワモノ、絶えず細微な変化を繰り返すビートに特徴を持つそれらのサウンドは、ミニマル・テクノがいく度目かの大きな変化の季節を迎えていることを示唆している。
そんな渦中で、11年ぶりにリリースされるプラスティックマンのオリジナル・アルバムが本作『EX』だ。プラスティックマン名義としては、2010年には過去の作品を集めたCD15枚+DVD1枚のボックス・セット『アーカイブス1993-2010』を、同時にそこからの編集盤的ベスト盤『コンピレーション』をリリースしているが、ニュー・アルバムとなると2003年の『クローサー』以来である。
リッチー・ホウティンと言えば、最新テクノロジーを駆使した挑戦的なDJ/ライブ・パフォーマンスでオーディエンスを湧かせているが、ことオリジナル・トラックに関しては、エンターテインメント性を避け、作品性をできうる限り掘り下げることに注力している。
ファースト・アルバム『シート・ワン』(1993)、セカンドの『ミュージック』(1994)ではドラッギーなアシッド・サウンドを披露して、『コンシュームド』(1998)や『クローサー』(2003)においてはダークで内省的なサウンドを志向しているが、ベースとなっているのは最大限に装飾性を省いた反復性にある。ニューヨークのグッゲンハイム美術館で催されたクリスチャン・ディオールのイヴェントのために制作された本作においても、それは変わることない。
ここには、ヒプノティックなベースラインとシンプルなビート、ときにアシッディに鳴り響くドープなシンセサイザーのヴァリエーションで展開するプラスティックマン・スタイルの、2014年ヴァージョンが展開されている。リスナーにとっては、プラスティックマンの独特のトリップを久しぶりに堪能できるというわけだ。ミニマル・テクノの第一人者としての揺るぎないコンセプト、そして実験と前進、プラスティックマンの美学が見事なまでに反映された1枚だと言えよう。
山崎真