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jjj

Hip Hop

jjj

YACHT CLUB

FL$Nation / AWDR/LR2

Tower HMV Amazon iTunes

二木信   Dec 19,2014 UP

 『YACHT CLUB』を最初に聴いた感想は、パブリック・エネミーやアイス・キューブ『アメリカズ・モスト・ウォンテッド』のプロデュースで知られるボムスクワッドのハンク・ショックリーの次の言葉に集約される。「音楽は組織化されたノイズに他ならない」というものだ。『YACHT CLUB』は実際にすさまじいノイズの美学で、フロウ、レイヤリング、ラプチャーという、90年代にトリーシャ・ローズが『ブラック・ノイズ』(1994年)で定義したヒップホップの三大コンセプトを否応なしに彷彿させる。

音数の多さとドリフト走行をくり返す激しい展開にまず圧倒される。一曲のなかで複数のキック(バスドラ)、スネア、ハイハット、あるときはリムショットを用い、いくつものサンプリング・ソースをレイヤリングしていく。ブルース・ロックのギターが唸りを上げ、オルガンのビター・スウィートな音色が響き渡り、パーカッションがカツカツカツカツと打ち鳴らされ、レコードを引っ掻く針の音が次のヴァースへの高揚感をギギギギーと煽る。そうかと思えば、唐突にそれまでの展開を切断する(=ラプチャー)ビート・パターンやシンセ音を大胆にくり出し、聴く者を翻弄し、ソファにふんぞりかえる鑑賞者になる余裕を与えない。jjjは「アメブレイク」のインタヴューで、「サンプリング6:シンセ4って感じですね。音源は、聴こえないところとかで隠して使ってますね」と語っているが、いずれにせよ、この騒々しさと疾走感にぐるぐると目が回るのはたしかだ。全17曲中のいくつかは、さながら暴走特急である。

 僕と同世代のあるビートメイカーは、jjjのトラックのこの騒々しさについていけないと漏らしたが、言いたいことはわかる。これは、若さの速度であり、若さのエネルギーの放出であり、89年生まれのjjj流のクールなバカ騒ぎだ。そして、このけたたましい騒音のなかに潜り込み、強い意志のこもった言葉と毅然とした態度でスピットし、切れ味の鋭いライミングを優雅に披露していく。ビートと併走しながら、シュッシュッシュッと忍者のようにあちこちに飛び回る俊敏なフロウで音の時空をコントロールし、jjjの暴走特急は終着駅までぶっ飛ばす。さあ、参考までに、ボクシングの試合開始を告げるカンカンカンというゴングの音が闘争心を高める次の曲を聴いてほしい。NYのハーレムに移り住んだキッド・フレシノをフィーチャーし、ミュージック・ヴィデオはNYで撮影されている。


jjj - vaquero! ft. KID FRESINO (prod.jjj)

 jjjのラップや断片的なリリックに意味や主張がないとは言わないが、リズム楽器としての切り返しの鋭さの魅力が勝っている。池袋の〈bed〉でライヴを観たとき、同じステージに立つ、酩酊気味で覇気のない仲間のラッパーたちに対して、「ヨレてんじゃねえよ!」という叱咤の言葉を吐き出したjjjの容赦のない表情をいまでも鮮明に覚えているが、jjjのビート/トラックとラップのヨレの無さそのものが彼の主張であり、メッセージだろう。
 「PAINやGAINの話じゃねえ/すべて向き合った上/HAVE A NICE DAY!」(“Fla$hBackS”)というパンチラインで、日本のラップ・ミュージックの新しい時代の幕開けを予感させた色男である。そう簡単に、わかりやすい言葉でわれわれを納得させたり、期待させたり、甘い夢をみせるような野暮な真似をしないだろう。密かな野心とクールな立ち居振る舞いと厳しい表情というものが、jjjにはよく似合っている。

 さて、ここで触れるべきことにも触れておきたい。フラッシュバックスのメイン・トラックメイカーであり、ラッパーのjjjによる、幾度かの延期ののちに発表されたファースト・ソロ・アルバムには、クレジットを見るだけで、「おっ」と反応してしまう点がいくつかある。まず、スキット/インタールード的な3曲以外のミキシング(ヴォーカル・ミキシングのみの曲を含む)をすべてD.O.I.が担当していること。さらに、リップスライムのSUとACOが参加していること。そして、キッド・フレシノ、説明不要の3人組のモンジュ、若手のキアノ・ジョーンズ、ヤング・ドランカーズのムタ、盟友フェブ、Taha Vanillaという美しい歌声の女性シンガーが参加している。

 ここで作品全体の根幹に関わるのはやはりD.O.I.である。D.O.I.は、95年に発足したDJ KENSEIとnikとのプロジェクト、インドープサイキックスのメンバーの一員として、ブレイクビーツ/エレクトロニカという形式を採りながら、誤解を恐れず言えば、その目の覚めるようなクリアな音響のみでクラブ・ミュージック・リスナーの耳の感覚を変容させ、ジャンルの壁を打破した人物である。また、エンジニア/マニピュレーターとしてブッダ・ブランド、ムロ、ライムスターといったヒップホップ勢を手がけ、安室奈美恵やエグザイルといったJ・ポップの楽曲のミキシングも担当している。そして、jjjがD.O.I.氏を引っ張り出した(この表現を使いたくなる事件なのである)ことは大正解……というとおこがましいが、jjjは自分が目指すべき音の方向性を明確に意識して、制作に入ったということだろう。

 これだけのノイズ=サンプリング・ソースとけたたましいサウンド(メロウで、レイドバックした楽曲もあることは付け加えておこう)を構築、構成する上で、D.O.I.のミキシングと、推測するに彼からのアドヴァイスも大きかったのではないだろうか。いや、まぎれもなく、ノイズを音楽にするスリリングな創造はjjjの手によってもたらされたに他ならない。
モンジュをフィーチャーした“go get 'em”がそのことを証明している。80年代ディスコ風の上ネタのチョップの俊敏性と斜めから切り込むモンジュの3人とフックのjjjのラップ・シンギンと3連ハイハット、極めつけは意表を突くMr.PUGのヴァースのあたま8小節の(おそらく)殿下のファルセットと女性の喘ぎ声の大胆な引用だ。はちゃめちゃなことをやっておきながら、この曲は、jjjのハーモニーとメロディのセンスによってポップなラップ・ミュージックとして成立している。一皮剥けば、そこにはばらばらのノイズが散らばっているというのに、jjj流のフレッシュな秩序がたしかに存在している。見事だ。

二木信

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