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Lightning Bolt

ExperimentalHardcoreIndie RockJunk

Lightning Bolt

Fantasy Empire

Thrill Jockey / Pヴァイン

Tower HMV Amazon iTunes

松村正人   Mar 12,2015 UP

 フロアにできたひとの渦の上をへろへろの男は笑いながら運ばれ端までいって落ちては立ちあがりまたひとの波にのまれにいった。ふつうモッシュピットといえば、ステージのハードな演奏にいてもたってもいれなくなった観客のおこす癇癪みたいなものだと相場は決まっておるが舞台上に演者の姿はない。かわりに数人のお客さんがぶらぶらしている。音の聞こえるほうに目を凝らすと人垣の向こうにマイクを仕込んだ蛍光グリーンの妙なマスクをかぶった男が歌いながらドラムを叩きのめし、脇にはコンパクト・エフェクターを前にステッカーをベタベタ貼ったベースを抱えこみ赤ん坊をあやしながら折檻するように弾く男がいる。

 私が何度か足を運んだチッペンデイルとギブソン、両ブライアンによる、ロードアイランド州プロヴィデンス、神の摂理を意味する米国いち小さな州の州都からやってきた米国いちさわがしいドラムンベース・デュオのライヴはおおよそこんなふうに進み、彼らは音盤よりもライヴで本領を発揮する連中だと評価はうなぎのぼり、まんざらでもなかったのかライトニング・ボルト、来日のたびに騒々しさはひきもきらない。ところがここには厄介な問題があった。音盤は録音物だということである。脱力めされるな、読者諸兄よ。レコードの誕生とともにはじまった、一瞬ごとに消えてはなくなる音楽と現物支給とのこのあたりまえのジレンマに私は彼らの本音は知らないが彼らほど悩まされたグループはいない。現在の録音技術をもってすれば彼らの曲であってもかなりのところまで再現可能だろう。ところが最新録音機材の分解能は渾然一体となった音の粒立ちは記録できてもライトニング・ボルトの帯電する空間感まではハードディスクでは捉えられない。デジタル・サイレンスはまったくの無音なのである。磁気テープが進化すればよかったのにと両ブライアンの嘆きが聞こえてくるようだ。そうなったからといって彼らの全部を録れるとはかぎらない。それに音楽のよしあしは音質とはなんら関係ない。70年代にパンクはその境地を拓きノーウェヴが80年代に補完し90年代のローファイが脱臼した。ライトニング・ボルトはその21世紀ヴァージョンであり、1999年のセルフ・タイトル作を皮切りに、2001年の『Ride The Sky』からきっちり2年刻みで出した『ワンダフル・レインボウ(Wonderful Rainbow)』、『ハイパーマジック・マウンテン(Hypermagic Mountain)』、やや間を置いた2009年の前作『アースリー・ディライツ(Earthly Delights)』まで、彼らは一貫してインディペンデントな音楽のやり口がインディ・ミュージックと呼ばれていない時代からの流浪の民でありつづけた。その意味でライトニング・ボルトはジャンクの血脈を継ぐオルタナの嫡子でありルインズの後輩であるとともにバズーカ・ジョーのライバルでありホワイト・ストライプスの朋輩であるだけでなくタッジオの年の離れた従兄弟でもある、かもしれない。

 『ファンタジー・エンパイア(Fantasy Empire)』でもその流れは途切れない。むかしとった杵柄をそう簡単に棄てられないということか? 否。ライトニング・ボルトはこのアルバムではじめてちゃんとしたスタジオでちゃんと録った。ちゃんとというのはこれまでがちゃんとしていなかったのではなく、音盤のもつ意味をより実体に適う方向に向けようと腐心したということだ。地元の古巣〈ロード〉を離れ、彼らは今回シカゴの老舗〈スリル・ジョッキー〉と手を組んだ。前作までと聴き較べると音質は各段に向上している。私は音楽と音質は関係ないと書いてしまいましたが、音がよくなってライトニング・ボルトのやっていることが具体的によくわかるようになったのはまるで巌となったサザレ石をひとつひとつたしかめるような、音塊の粒子に手でふれるのに似た聴き応えだった。チッペンデイルのフレーズの組み立てはつまびらかになり、ギブソンのエフェクター捌きが曲のキモであるのがよくわかる。録音のやり方が変わったからといって豪壮なオーケストレーションを施しているわけもなく、カブセは一部あるものの、それもあくまでもライヴでの再現を優先に考えている。ゆえに疾走感は減退することもなく、“ザ・メタル・イースト(The Metal East)”から“スノウ・ホワイト (& The 7 Dwarves Fans)”まで、つねにスピーディにときにダビーつまるところグランジーにライトニング・ボルトは帯電域を広げつづける。偽メタルやらモーターヘッド的なダーティなリフワークやら芸の細かさにもことかかない。日本盤は “ホエア・アー・ユア・キッズ(Where Are Your Kids?)”なるサイケデリックなボートラ入りなので、貪婪なリスナーはこちらをご所望いただきたい。

 ひとつ注意しなければならないのは、音量をあげすぎると家人にスピーカーが壊れたのかと訝られるということだ。それに隣人にも迷惑がかかる。また自宅ではダイヴもモッシュも禁止である。下にお住まいの方に迷惑かかる。戸建てないしは一階にお住まいなら問題ないが、それはいずれ実現するであろう彼らの次のライヴまでとっておくことにしましょう。祈再々々々来日。

松村正人