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わかるよ、わかる、10年後にもしハウス・ミュージックのカタログ本が刊行されたら、これはこの時代の名盤として紹介されるだろう。悪いがこれは良いアルバムだ。サンジェルマンの『ブールバール』がそうであるように、ムーディーマンのファースト・アルバムやセオ・パリッシュの『ファースト・フロア』がそうであるように、ハウス界隈のみならず、ときが経てば、クラブ・ジャズ/ヒップホップ界隈からも再発見されるだろう。
イアン・オブライアンの最良の瞬間がそうであるように、ロメアのファースト・アルバムは、ブラック・アトランティック的ロマンティシズムに満ち満ちている。
デトロイトのアンドレスとも共通する匂いがある。ヒップホップ的コラージュが彼の手法であり、そこから浮かび上がるのはソウルとグルーヴだ。
ロメアとは、ロンドン在住のアーチー・フェアハーストなる人物のプロジェクトで、その名前をアフリカン・アートの作家ロメア・ビアーデンから取っている。彼の評判はおよそ2年前、ブリストルの〈ブラック・エイカー〉(いまもっともイケてるレーベルのひとつ)からシングルを発表して、じょじょに広まった。それらの作品は、彼のアフリカ起源の音楽のアーカイヴを紐解きながら、ひとつひとつ検証し、現代のクラブ・ミュージック(フットワークからUKガラージまで)として応用した結果だった。UKのクラブ・ミュージクらしいアプローチである。
そして、この度、うまいことニンジャ・チューンが引っこ抜いて、本作『プロジェクションズ』をリリースしたというわけだ。
僕は、最低でももう1枚、UKからは何年かに1枚の素晴らしいハウスのレコードが出ることを知っている(そして、もしもフローティング・ポインツがアルバムを出すようなら、もう2枚となる)。その作品との比較で言えば、ロメアは、よりディープで、よりスモーキーで、より温かく、そして繰り返すが、アフリカに根ざした音楽からの影響がより濃く滲んでいる。
ロメアのやり方は、必ずしも新しくはない。しかし、アルバムとしての完成度は高く、ここにはクラブ・ミュージックの滑らかで美しい側面が凝縮されているように思う。感情が揺さぶられ、発展するという、最高にエーモショナルなハウス体験が保証されている。
今月末に刊行する紙エレキングの「UK特集」をやりながら、あらためて思ったのは、音楽に詳しいことはUKらしさの一要素である、ということだ。そして、いくら時代は変われど、彼らはアメリカのソウル・ミュージックを掘り続けている。思い出し欲しい。オレンジ・ジュースのファースト・アルバムはネオアコの古典だが、同時にそれがブルーアイド・ソウルだったことを。つまり本作『プロジェクションズ』は、ベースメント・ジャックスのアルバムは中古屋に売ってしまったけれど、ムーディーマンは手放せないという人が聴いて間違いないのだ。
野田努