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Alabama Shakes

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岡村詩野木津 毅   Apr 22,2015 UP
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抗うことのできない、力づよい王道 木津毅

 細かいところは忘れてしまったけれど、スティーヴン・フリアーズの映画『ハイ・フィデリティ』のクライマックスでジャック・ブラックが思いがけず“レッツ・ゲット・イット・オン”を歌い出すところはいまでもよく覚えている。あの歌のスウィートな調べ、あるいは場の空気を一気に溶かすようなマジックにやられていたのは、誰よりも、手に負えない音楽オタクのスノビズムを体現するかのような主人公だった。どれだけ音楽のことを他の人間よりも知っていようとも、いや、だからこそ、抗うことのできない王道の威力。であるとすれば、アラバマ・シェイクスは登場した当時、インディ・ロック・シーンにおける“レッツ・ゲット・イット・オン”であった。
 彼女らのデビュー作『ボーイズ&ガールズ』における最良の瞬間はたとえば、“アイ・ファウンド・ユー”でタンバリンがロックンロール・サウンドとともに武骨に鳴らされるなか、ヴォーカルのブリタニー・ハワードが腹の底から発する「ハッ!」という叫びに宿っていた。あるいは“ハング・ルーズ”の、演奏するのが楽しくて仕方ないというようなベースのリフと鍵盤によるイントロ。スカスカで飾り気のないリズム、ロック・クラシックを素直に受け継いだギター、そしてブリタニーの一瞬で聴き手を黙らせるパワフルな声。アメリカにおけるルーツ音楽を発掘し現代的な文脈を与えるという「知的な」トレンドがひと段落したところに現れた、あまりにもあっけらかんとして素朴な、レトロ・ソウルとロックンロールを演奏する歓びがそこにはあり……だから、そのとき「I found you!(見つけた!)」と叫びたくなったのは小賢しいインディ・ロック・スノビズムに飽き飽きしていたリスナーのほうだったのだ。

 3年ぶりのアルバム『サウンド&カラー』の「サウンド」のほうはまず、オープニングのヴィブラフォンの響きにおっと思う。ストリングス・アレンジメントにロブ・ムースが参加していることもあるのだろう、前作からのラフでごつごつしたバンド・サウンドだけでなく、オルガンやストリングスなどの多彩な装飾によって抽象的かつ繊細なニュアンスを出すことに腐心している……ごくまっとうなセカンド・アルバムらしい歩の進め方だと言えるだろう。その成果がよく表れているのがアコースティックな“ディス・フィーリング”で、ずいぶん抑制したアンサンブルによって彼女らのいちばんの良さ、すなわち歌のスウィートネスを封じ込めている。“ジェミニ”のようなスロウでサイケデリックな長尺ナンバーは、バンドとしてはもっとも冒険した例だろう。もちろん、“ドント・ウォント・トゥ・ファイト”のようなロック・チューンでは太いベースが醸すグルーヴとブリタニーの迫力のあるヴォーカルが変わらず聴ける。なんというか、この実直に成長を見せようとする姿がじつにこのバンドらしい。「たんなるレトロ・ソウルのリヴァイヴァル・バンドだと思われたくなかった」との発言を証明するように本作では音の多様さを見せながら、しかしソウルの血を忘れることはない。

 「音と色に包まれて生きること(“サウンド&カラー”)」……という、「カラー」のほうはやはりブラック・ミュージックのことを指しているのだろうと思う。高校の同級生で結成されたロック・バンドといういまどき珍しいぐらいの普通さ(矛盾しているが)に驚くけれど、そこが黒人音楽の豊穣な歴史が息づくアメリカ南部としてのアラバマ州の田舎町だったことはバンドの成り立ちを考える上で重要だ。かつてブリタニーが白人の男の子たちだったバンド・メンバーを「黒人のスラム街のど真ん中」にある自宅のパーティに招待したというエピソードはそのまま、バンドのプライドとコアと直結しているだろう。ソウル、ロックンロール、ブルーズ、性別と人種が混在するアンサンブルで生き生きと演奏されるエモーショナルなラヴ・ソング。アルバムの僕のフェイヴァリットはどこまでも甘いソウル・チューン“ミス・ユー”だ。「もしかしてあたしってあんたのもの? あんたのものよ!」……ブリタニーのドスの効いた声は一瞬でわたしたちを隔てる壁をトロトロに溶かそうとする。
 そして僕は、つい先日他界したアラバマ州出身のソウル・シンガー、パーシー・スレッジのレパートリーにあった(元はジェイムス・カーの)“ダーク・エンド・オブ・ザ・ストリート”のなかで、許されない恋をしていた恋人たちのことを思い出す。「やつらは僕らを見つけてしまう……いつの日か」。それが不倫なのか、あるいは人種を隔てた恋なのか……ただ、パーシー・スレッジは大人になるまで黒人の歌手の存在を知らなかったという。ひと目を忍んで暗がりで会っていた恋人たちは、アラバマ・シェイクスの温かく力強い愛の歌をいまどこかで聴いているだろうか。南部出身の黒人の女の子が元気いっぱいに、白人のインディ・ロック・キッズと奏でる現代のソウル・ミュージックを。

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