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Blur

BlurBrit PopRock

Blur

The Magic Whip

Parlophone

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ブレイディみかこ   May 11,2015 UP

 最近、英国のショービズ界の上流階級化が盛んにメディアで問題視されているが、その中で時折見かける表現が、「むかしはブラーとオアシスが、ミドルクラス VS ワーキングクラスのバトルを繰り広げたこともあったが、今考えるとブラーなんてのは全然ワーキングクラスだったように思える」というものである。ポップ界があまりにポッシュで線が細くなったため、今振り返ればブラーとオアシスは同じ階級のように思えるのだろう。
 で、それとは全然関係ないのだけれども、本作を聞きながら、あと5年ぐらい経ったらブラーとレディオヘッドは全く同じようなアルバムを作っているんじゃないかと思った。レディオヘッドがだんだんメロウでジャミーなサウンドになり、エレクトロから離れて行く一方で、ブラーはだんだん籠った情報量の多いサウンドになり、ファンキーになっていく。過去四半世紀のUKミュージックの「考えるロックバンド」のツートップである彼らは、クールなUK中年ロックというサウンドにうまく着地している点でイコールだ。結局はそこにあるサウンドが同じものだということなのかもしれないが。
 いずれにせよ、ブラーを中央にすればオアシスとレディオヘッドも繋がっていると思えば、ブラーというのはUKロックの根幹なのかもしれない。政治的に言えば「分厚い中間層」というやつだ。90年代とは違い、今のUKですっかり痩せてしまった層である。

            *****

 『Magic Whip』は随所でむかしのブラーも髣髴とさせる。冒頭の“Lonesome Street”のギター・リフや野太いグルーヴは『Parklife』に入っててもおかしくないし、“Go Out”のユーロ・ディスコ調のノリも“Girls and Boys”や『The Great Escape』の“Entertain Me”を思い出させる。酔った若い兄ちゃんたちがパブで歌ってそうな“Ong Ong“は『The Sunday Sunday Popular Community Song CD』 の“Daisy Bell”と“Let’s All Go Down The Strand”の延長上にある。

 が、こうした懐かしさを随所に残しながらも、『Magic Whip』はちゃんと先に進んでいる。シアトル・グランジの『Blur』、宇宙的な『13』、マラケシュで録音した『Think Tank』に続き、今回は香港だ。ツアーの合間に九龍のスタジオで5日間で録った音源をもとに作ったアルバムだからチャイナがテーマなのだろうが、12年ぶりの最新作のジャケットにこういう絵柄を用い、前作からシームレスに旅を続けている感じになっているのがいかにもブラーらしい。デーモンのソングライティング的に言えば、モダン・カルチャーに対する違和感というテーマはソロ作『Everyday Robots』と同じだが、スローな曲もここではおセンチになり過ぎない(あのソロのメランコリアは個人的にはパロディーかと思ったほどだ)。“Thought I Was a Spaceman”のような陰気なバラードでさえ、アレックス・ジェームズの弾けるベースのリズムとグレアム・コクソンのギターのハミングが入るとメランコリーは希薄になり、そこはかとなく明るく、諧謔的にさえ感じられる。難解さと暗さが中和されてポップに、つまり民衆の音楽になるということだろう。やはりブラーは分厚いミドル層のサウンドなのだ。

           *****

 本作はインスタント・ヒットになるような楽曲が突出している系のアルバムではない。
しかし全体としての曲のつながりというかフロウがとてもナチュラルに流れていて何度聴いても飽きない。こんなアルバムはブラーにはなかったのではないか。
 中でも個人的に素晴らしいと思うのは“Ghost Ship”から“Mirror Ball”までの4曲の流れだ。まったく趣の違う4曲がミドル・テンポという唯一の共通点で違和感なく見事に繋がっていて、さすがはUKの偉大なる「考えるロックバンド」の面目躍如といったところだろう。「考える」の知性派概念に対峙する「感じる」派ヤンキー・バンド、オアシスのほうは再結成するだのしないだのタブロイドを騒がせているが、まったく対照的に、ツアーがキャンセルになって空いた時間にスタジオに入り、ほんの数日でこういう音源をつるっと録音して新作としてあっさり発売してしまうところがブラーのスマートさだ。

 UK総選挙の結果が出た朝にこれを書いているのでわたしの心も原稿も千々に乱れているが、そういえばキャメロン首相がサッチャーよりひどいと言われる理由の一つに、「サッチャー時代は下層からミドルクラスに上って行った人間が多かったが、キャメロンの時代はミドルクラスの下のほうがどんどん下層に落ちてフードバンクに並んでる」というのがある。
 ブレア時代までは存在したUKの分厚い中間層は、遠い過去のブリリアントな幻影になったのである。
 その大いなる損失がUKロック衰退の原因の一つであるということが、ブラーを聴いているとしみじみと濃厚に感じられ、今後5年間のことを思うとわたしの涙はいよいよ止まらなくなる。I’m gutted.

ブレイディみかこ