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Modest Mouse

Indie Rock

Modest Mouse

Strangers To Ourselves

ソニー

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木津毅   May 19,2015 UP

 モデスト・マウスとはアイザック・ブロックの眼光の鋭さである。アーティスト写真をはじめて見たときから、エラくこちらを睨みつけるコワモテの兄ちゃんだなと思っていたら、ライヴのときもその顔のまま歌い叫んでいてちょっとぎょっとしてしまった。そして、それ以来モデスト・マウスを聴くことは、ブロックの視線を浴びることなのだと感じるようになった。

 8年ぶりのアルバムだということが必ず言及される本作『ストレンジャーズ・トゥ・アワセルヴズ』だが、その点では何も変わっていない。というか、20年以上のキャリアを持ち、メジャーでのヒット作『グッド・ニュース・フォー・ピープル・フー・ラヴ・バッド・ニュース(悪いニュースが好きなひとたちへの良いニュース)』、2004)、『ウィ・ワー・デッド・ビフォア・ザ・シップ・イーヴン・サンク(我々は船が沈む前に死んでいた)』、2007)を経たいまでも、丸くならない。そこにあるのはいつも怒りと悲しみである。ちょうどすぐ上の世代が狭義のオルタナティヴ・ロックだったという出自も関係しているだろうが、しかし、ヴェテラン・バンドが……インディ出身の人気メジャー・ロック・バンドが、いまだに怒りをたぎらせているように見えるのはちょっと普通ではない。モデスト・マウスがいつまで経ってもインディ然としているのはそのためだろう。

 本作はまず、ひたすら怒鳴り散らすようだった前作とはちがい、深いメランコリーが帰ってきていることが大きなトピックだ。人類を大量自殺するネズミに見立て、「進め! 進め! 進め! 進め!」と笑いながら唾を飛ばして叫んだ前作のオープニングとは対照的に、物悲しくも優しいメロディが広がるタイトル・トラックで幕を開ける。「俺たちはツイてる」……という歌い出しが全然ツイてるように聞こえないのがモデスト・マウスらしい。「実に誠実に努力して来たのに忘れてしまうのさ/俺たちは忘れてしまうんだ」。

 アルバム全編を通して、そのモデスト・マウスらしさが炸裂する。変わらない……『ピッチフォーク』には「よく知られるモデスト・マウス・サウンドのグレイテスト・ヒッツ・ヴァージョンの類」と書かれているが、その変わらなさをどう捉えるかが本作の評価の分かれ目だろう。たしかに先行シングル“ランプシェイズ・オン・ファイア”に顕著だが、管弦楽器をふんだんに配し、パンク・ロックを演奏する楽団となったバンドのテイストは以前から定着していたものだ。なかには“ピストル”のようなふざけたラップ・チューンのようなものもあるが、それだって以前“タイニー・シティズ・メイド・オブ・アッシェズ”でやっていたことの変型ヴァージョンだと言える。

 だが、そのコアにある怒りと悲しみゆえに、この変わらなさは頼もしさと同じであるように自分には感じられる。ペーソス溢れる弾き語り調の“コヨーテ”で、ブロックは「人間は連続殺人鬼のように振る舞う」と歌うが、彼は必ず自分を含めたものとしての(「人間」というより)「人類」の愚かさについて描写する。歌詞には皮肉と厭世感が溢れ、ブロックは開き直ったように、あるいはあざ笑うかのように、ときには諦めたように、それを茶化した発声をする。「俺たちはあらゆる霊長類のなかで一番セクシー/自分たちの魅力をのびのび発揮しよう」と歌う“ザ・ベスト・ルーム”は、けれどもその曲自体のパワフルさと独特のグルーヴによって、怒りとも悲しみとも断定できない複雑さを孕んでくる。ときにヤン・シュヴァイクマイエルのようにグロテスクなほど風刺的で、ときにアメリカン・ニューシネマのように反骨精神に満ちている。

 「生活は良くなる、未来は明るい」と繰り返す経済学者や指導者の類にとって、アイザック・ブロックの言っていることはちょうど不気味な預言者が告げる不吉な未来のようなものだろう。けれどもこのバンドがいまも人気を博しているという事実は、「未来はない」ことを一度噛みしめることが痛切に求められていることではないか? “ビー・ブレイヴ”では「俺たちはやめない/やめるつもりもないし やめることもできないし/とにかくやめない」という宣言がなされる。そのとおり、バンドはいまも新人のようにハードなツアーを組み、夜ごと「勇気を出せ」と叫ぶパンク・チューンを叩きつけている。

木津毅