ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. High Llamas - Hey Panda | ハイラマズ
  2. The Stalin - Fish Inn - 40th Anniversary Edition - | ザ・スターリン
  3. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  4. John Carroll Kirby ──ジョン・キャロル・カービー、バンド・セットでの単独来日公演が決定
  5. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ
  6. VINYL GOES AROUND ──「静かな夜」がテーマのコンピレーション、アンビエントやジャズからメロウで美しい曲を厳選
  7. JULY TREEにて、オーガスタス・パブロ関連の写真やゆかりの品々などを展示、およびグッズ販売
  8. R.I.P. 遠藤ミチロウ
  9. Kinnara : Desi La ——ele-kingでお馴染みのデジ・ラ、1日だけのポップアップ
  10. KRM & KMRU - Disconnect | ケヴィン・リチャード・マーティン、ジョセフ・カマル
  11. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  12. Cornelius - Ethereal Essence
  13. Columns ♯7:雨降りだから(プリンスと)Pファンクでも勉強しよう
  14. LIQUIDROOM 30周年 ──新宿時代の歴史を紐解くアーカイヴ展が開催
  15. Columns スティーヴ・アルビニが密かに私の世界を変えた理由
  16. 『情熱が人の心を動かす』
  17. THE STALIN ──ザ・スターリンのもっとも過激なときを捉えた作品が完全復刻
  18. Columns 6月のジャズ Jazz in June 2024
  19. interview with bar italia 謎めいたインディ・バンド、ついにヴェールを脱ぐ | バー・イタリア、来日特別インタヴュー
  20. Adrian Sherwood presents Dub Sessions 2024 いつまでも見れると思うな、御大ホレス・アンディと偉大なるクリエイション・レベル、エイドリアン・シャーウッドが集結するダブの最強ナイト

Home >  Reviews >  Album Reviews > Super Furry Animals- Mwng

Super Furry Animals

ElectronicIndie RockPsychedelic

Super Furry Animals

Mwng

Domino / ホステス

Tower Amazon

木津毅   Jul 10,2015 UP Old & New

 『リングス・アラウンド・ザ・ワールド』とは、なんて予見的なタイトルだったんだろう。世界じゅうの大多数の人間が、同じ企業が売っている電話を持つことになるとは当時は思っていなかったし……いや、じつはみんな知っていたのかもしれない、そんな未来/現在が来ることを。「リン、リン! リン、リン! リングス・アラウンド・ザ・ワールド!」と繰り返すことで誰もを心躍らせるポップ・チューンは、そんな世界がやって来ることへの高揚と恐怖、その両義性を示しているようにいま聴くと思えてならない――「遅かれ早かれ、僕たちは溶け合ってしまうんだよ」。

 同作はグローバリズムにジェントルに、しかし屹然と抗してみせたスーパー・ファーリー・アニマルズにとっての最高傑作だが、今年デラックス・エディションとして〈ドミノ〉から再発されたのはそのひとつ前の、ディスコグラフィのなかでは少し埋もれがちなフォーク・アルバム『ムーング』だ(2000年、通産4作め)。なぜこのアルバムなのか? そこには15周記念とか、廃盤になっていたからとか、いろいろ現実的な事情もあるだろうが、しかし、ある理由によって時代が召喚したのだと僕は思いこんでしまいたい──このアルバムは全編ウェールズ語で歌われているのだ。

 国内盤のライナーノーツに寄せられたフロントマンのグリフ・リスのインタヴューでの発言によると、古くからウェールズ語を話すコミュニティが不動産業界の介入もあって破壊されつつあるそうだ。制作当時『ムーング』には政治的な動機はさしてなかったそうだが、時が経つとともにその意義はますます重みを増している。いまや消えつつある共同体の、そこに住んだ労働者たちが話した、いまや消えつつある言語――その言葉を使ってバンドは、わたしたちには何を言っているかぜんぜんわからない、だけどその体温は確実に伝わってくるフォーク・ソングを鳴らしている。

 デラックス・エディションというような類のものに僕は正直それほど惹かれることはないのだけれど、ピール・セッションでのライヴが収録されていることは本作のひとつのトピックだ。少しばかりくだけていて、とても親密な録音はこのアルバムの楽曲にフィットしていて、ファンはぜひ聴いておきたいものだ。と同時に、このウェールズ出身のモダン・サイケ・バンドを聴いたことのない90年代以降生まれにも親しみやすい作品であるだろう。というのは、ここでのアシッド・フォークともチェンバー・フォークとも言える楽曲群は、USインディ(・フォーク)で起こったことを5年ほど先取りしているようにも聞こえるからだ(じっさいこの再発とともに、アメリカのリスナーにバンドのディスコグラフィが再発見されているようだ)。厚みがあって陶酔的なコーラスや生々しい録音のアコースティック・ギター、哀愁を帯びたブラスの旋律。それはグリフが発するウェールズ語のミステリアスな響きとも相まって、聴き手たるわたしたちを霧が立ち込める森へと連れて行ってしまう。そこでは人びとが知らない言葉を話しながら生活をしている……。けれどもそこではときに、時空がねじ曲がったかのようなおかしなウェスト・コースト・ポップ、サーフ・ロックも演奏されて、共同体の人びとはとても楽しそうだ。

 僕たちはもちろん、世界を壊していくグローバリズムに誰よりも自分たちが加担していることを知っている。いっぽうではマシュー・ハーバートのようなアーティストをリスペクトしながら、もういっぽうでは日々の消費活動を通して何よりも自分たちを傷つけている。その積み重ねとともに15年を経て、ますます格差は広がり、それでも『ムーング』から響いてくる優しさは変わらない。本編ラスト・トラック“Gwreiddiau Dwfn / Mawrth Oer Ar Y Blaned Neifion”の、荒れる心をなだめるように響くブラスとギター、そして何を言っているか全然わからないグリフの穏やかな歌。訳を見るとここでもまた、電話のモチーフが見受けられる。「落ち着くんだ 電話が鳴り響く/それは真っ暗な孤独を反映している」……世界はますますひとつになって、なのに僕たちは孤立していくばかりなんだろうか? だがそんな不安と悲しみに、この歌たちはありったけの思いやりでもっていまも寄り添ってくれる。

木津毅