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プティ・ノワール、すなわちフランス語で小さな黒(黒人)という名前を持つヤニック・ルンガ。ベルギー生まれのコンゴ人とアンゴラ人のハーフで、2012年頃から活動をはじめた24歳のシンガー/プロデューサー/マルチ・インストゥルメンタリストである。現在は南アフリカ共和国のケープタウンで活動を行い、ソランジェがキュレーションするコンピ『セイント・ヘロン』への参加で注目された。ヤシーン・ベイ(exモス・デフ)も2014年からケープタウンに移住しており、そんなつながりから“ティル・ウィ・ゴースツ”という曲で両者はコラボを行った。その「ティル・ウィ・ゴースツ」を含むEP『ザ・キング・オブ・アンクサイエティ』を今年の初頭に発表し、ピッチフォークで8.2点の高得点を獲得したことは記憶に新しい。
10代よりメタルコア・バンドでギターを弾いていたプティ・ノワールだが、16歳のときにカニエ・ウェストの『808s & ハートブレイク』を聴いてから音楽観が変わったそうだ。そうした音楽的変遷を経た後の『ザ・キング・オブ・アンクサイエティ』は、アフロ・ポップとニュー・ウェイヴやポスト・パンクが結びついたものだったと言える。かつてのデヴィッド・バーンやピーター・ガブリエル、そしてデーモン・アルバーンなど欧米側からのアフリカ音楽へのアプローチを経て、アフリカの血が流れる若いアーティストから現代的なポピュラー・ミュージックが生れている。ブルックリンで活動するスーダン人のシンケインしかり、そしてプティ・ノワールしかりだ。
本作はプティ・ノワールの初のアルバムとなる。先行シングルの「ベスト」は力強いホーン・セクションが印象的なアフロ・ポップ。ミュージック・ビデオを自身のルーツがあるコンゴ共和国で撮影した“ダウン”は、80s風のシンセ・ディスコにコンゴ特有の民族調メロディが結び付いたもの。この曲や“カラー”など、前述のシンケインが所属する〈DFA〉のニュー・ウェイヴ×ディスコ・ダブに共振するナンバーだ。そして、“モール”や“ジャスト・ブリース”に顕著だが、プティ・ノワールの歌い方にはデヴィッド・ボウイあたりからの影響が見てとれる。失恋を歌にした“チェス”(『ザ・キング・オブ・アンクサイエティ』にも収録)は、U2の『ジ・アンフォゲッタブル・ファイア』にインスパイアされたとのこと。重厚な“フリーダム”、ダイナミックな“セヴンティーン(ステイ)”でも、ボノに通じるような研ぎ澄まされたフィーリングが表れている。
表題曲“ラ・ヴィ・エ・ベル(ライフ・イズ・ビューティフル)”では、コンゴからの移民でベルギー育ちのラッパーのバロジをフィーチャー。バロジと言えば2010年の『キンシャサ・スクルサル』が名高いが、同じルーツを持つ者との共演によりプティ・ノワールの本質が露わになっている。そして、この曲が象徴するように、アルバム全体のテーマはグレース・ジョーンズが歌ったエディット・ピアフの“ラ・ヴィ・アン・ローズ(美しい人生)”に通じる。ちなみにグレース・ジョーンズ版“ラ・ヴィ・アン・ローズ”には黒人賛歌、ゲイ賛歌などいろいろな解釈があり、パラダイス・ガレージのクラシックともなったが、プティ・ノワールの場合はどうなのだろう。「Petite」は女性に対するフランス語なので、ひょっとしたら彼にもそうしたところがあるのだろうか。