ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Terry Riley - In C & A Rainbow In Curved Air | テリー・ライリー
  2. Whatever The Weather ──ロレイン・ジェイムズのアンビエント・プロジェクト、ワットエヴァー・ザ・ウェザーの2枚目が登場
  3. VINYLVERSEって何?〜アプリの楽しみ⽅をご紹介①〜
  4. Columns ♯9:いろんなメディアのいろんな年間ベストから見えるもの
  5. Félicia Atkinson - Space As An Instrument | フェリシア・アトキンソン
  6. interview with Shuya Okino & Joe Armon-Jones ジャズはいまも私たちを魅了する──沖野修也とジョー・アーモン・ジョーンズ、大いに語り合う
  7. Doechii - Alligator Bites Never Heal | ドゥーチー
  8. COMPUMA ——2025年の新たな一歩となる、浅春の夜の音楽体験
  9. Columns Talking about Mark Fisher’s K-Punk いまマーク・フィッシャーを読むことの重要性 | ──日本語版『K-PUNK』完結記念座談会
  10. FRUE presents Fred Frith Live 2025 ——巨匠フレッド・フリス、8年ぶりの来日
  11. interview with Iglooghost 「カワイイ」を越えて荒れ地を目指す | ——若き才人、イグルーゴーストへのインタヴュー
  12. Tashi Wada - What Is Not Strange? | タシ・ワダ
  13. Masaya Nakahara ——中原昌也の新刊『偉大な作家生活には病院生活が必要だ』
  14. Whatever The Weather - Whatever The Weather  | ホワットエヴァー・ザ・ウェザー
  15. Fennesz - Mosaic | フェネス
  16. ele-king vol.34 特集:テリー・ライリーの“In C”、そしてミニマリズムの冒険
  17. Africa Express - Africa Express Presents...Terry Riley's In C Mali  | アフリカ・エクスプレス、デーモン・アルバーン
  18. Wendy Eisenberg - Viewfinder / Caroline Davis & Wendy Eisenberg - Accept When
  19. interview with Primal 性、家族、労働  | プライマル、インタヴュー
  20. P-VINE ──スマートフォン向けアプリ「VINYLVERSE」と次世代レコード「PHYGITAL VINYL」をリリース

Home >  Reviews >  Album Reviews > Nickelus F & Shawn Kemp- Trick Dice

Nickelus F & Shawn Kemp

Hip HopNoiseRap

Nickelus F & Shawn Kemp

Trick Dice

Self-released

Bandcamp Amazon

倉本諒   Oct 29,2015 UP

 活動停止後も過去音源の再発は一時間以内に完売、恐ろしい価格にてイーベイで取引され、続々と配信される未発表音源に誰もが狂喜乱舞するというカルト的人気を誇るリル・アグリー・メーン(Lil Ugly Mane)。DIYパンク/ノイズ的出自からのヒップホップ・ドリームという希有なサクセス・ストーリーはついにクライマックスを迎える!

 スイート・ピーティーことニッケラス・F(Nickelus F)は2000年頃、当時若干17歳でMCバトルの舞台にデビューを飾った神童である。04年までニック・フューリーとして活動し、数々の素晴らしいミックス・テープを発表している。中でも03年に発表した『ピストルズ・アンド・テックス』は、リル・アグリー・メーンことシャウン・ケンプ(Shawn Kemp)が友人のヴァンの中でメガ・ハイになりながらエンドレスで聴いていたと自らの思い入れを語る名作である。ニッケラス・Fとして改名後、米国のTV番組『ブラック・エンターテイメント・テレヴィジョン・106・パーク』によるフリースタイル・フライデイ内のバトルで7週連続チャンピオンを勝ち取り、07年度に殿堂入りを果たした。ドレイクとのコラボレーションもまた彼のメジャー・ラップ界における地位を後押ししたと言えよう。

 自身のラップを含む作品名義であるアグリー・メーンを凍結したトラヴィス・ミラーは、トラック・メーカーとしての活動名義「シャウン・ケンプ」がアクティヴであることを本作で証明した。いや、ひょっとしたらヴァージニア州リッチモンドという地元を共有するトラック・メーカー/ラッパーとして、多大なリスペクトに突き動かされたのかもしれない。本作、『トリック・ダイス』は正確にはアルバムとして制作されたものではない、両者の交流の中で制作された制作された個々のトラック、あるものはボツに、またはボツになったものを掘り起こし、再編集/再構築をおこなったコンピレーションに近いものである。トラヴィス自身、これまでない程にプロデューサー業に徹したと語るだけあり、本作は秀逸なトラックに満ちている。かつてないほどシンプルかつストレートなトラックへ落とし込むことでニックの豊潤なフロウを活かし、シャウン・ケンプの得意とするホラー・ムービー調のシネマティックなフックも外さない。同時期に発表されたニックの最新アルバム『トリフリン(Triflin')』(こちらも最高なのでぜひ)の超絶メロウかつチルい作風とは完全に異なる角度からニックの才能を最大限に引き出していると言えよう。

 ラストのトラックではトラヴィスもひさびさにラップを披露、アグリー・メーンの完全復活も近いことを示唆しているのか?

 ちなみにニッケラスFの最新アルバム『トリフリン』はスリムKによる全曲チョップド・ノット・スロップド・ヴァージョンがフリー・ダウンロードで公開されている。あぁ〜時が止まるくらいに最高だ……

http://slimkslowdown.com/nickelus-f-triflin-chopped-not-slopped/

倉本諒