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Ssaliva

AmbientElectronicTechno

Ssaliva

Be Me

Melting bot / Ekster

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デンシノオト   Dec 11,2015 UP

 インターネットはデジタル・ナルシスの生成空間だ。とくにSNS以降のインターネットは、他人と自分の関係性から境界が液状化し、融解し、消えかけていく場所といえる。ここでは愛は憎しみに簡単に反転するし、他人へのうっすらとした嫌悪は、いわば自己嫌悪の否認である。
 このデジタル・ナルシス的な鏡像関係は、新しい環境と「風景」を生み、われわれ人類の新しい「内面」を生み出している。ほとんど無現に増殖/液状化していく新しい「内面」の誕生である。その意味で、インターネット以降の世界を生きるわたしたちは、それ以前の人類からすると増殖する他人と自我の融合を抑えきれない「ミュータント」なのかもしれない。となれば「ポスト・インターネット」とは「液状化し増殖するわたし自身」が大前提となった時代の呼称となるだろうか。
 たとえば、アルカとジェシー・カンダの音楽とアートワークなどは、そのように増殖する自己(「ミュータント化するわたし」)を象徴的=批評的に表象している。だからこそ時代を象徴する作家なのだろうし、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーも同様である。ダニエル・ロパティンは20世紀のジャンクをかき集め、そこに一種の「わたしの死(=幽霊)」を見出していく。彼は、コピーと模倣で増殖するデジタル・ナルシスの「死」を見据え、わたしたち/彼らのゴースト・アトモスフィアを形成していくのだ。

 ベルギーの電子音楽家サリヴァ=フランソワ・ブランジェもまた、そんなデジタル・ナルシス=ポスト・インターネット時代/世代の音を生み出すエクスペリメンタルな電子音楽家のように思えた。彼はこれまでも同郷ベルギーの〈ヴェレック(Vlek)〉や、マシュー・デイヴィッド主宰の〈リーヴィング(Leaving)〉などから、ヴェイパー・ウェイヴ以降特有のロウな質感を持った融解的なエクスペリメンタル・テクノ/電子音楽をリリースしており、すでに一部の通人からは注目を集めていた人物である(カップ・ケイヴ名義としても活動)。そして2015年には、同じくベルギーの〈エクスター〉(Ekster)から本作をリリースしたわけだが、本作によって彼の評価はさらに決定的なものになるのではないか。なぜならこの新作もまたOPNやアルカの新作などと同じように、ポスト・インターネット的でありポストモダン的でありデジタル・ナルシス的であり、つまりは2015年的としか言いようがない作品なのだから。

 1曲め“サンポ”における電子のカーテンが開くような、冷たくも不安定なトラックから一気に引き込まれる。つづく2曲め“オーヴァーランド”や5曲め“ステイブス”の融解したビート、断続的で乾いたノイズ、淡いコード感、3曲め“エクストラ・スペース”、4曲め“ドリーム・ダイヴ”のグリッチ・アンビエントとでも形容したい質感など、どれもまったく素晴らしい。以降、どのトラックもミニマルな電子音、グリッチ・ノイズ、空気のようなアンビエンス、融解したリズム、クリスタルなシンセサウンド、それと相反するロウな質感が交錯し、優雅でシュールレアリズムの雰囲気に満ちた「いま」の電子音楽が展開する。オリジナル盤ラスト曲“フュギュア”など、不安定なシンセサイザーによって奏でられる優美な賛美歌のようである(この「優美さ」はフランソワ・ブランジェの最大の個性とも思える)。ポスト・インターネット時代のデジタル宗教曲?

 そして本作の音楽性を見事に表現しているのがアートワークではないかと思う。透明な氷のような、水のような、ガラス細工のような顔のオブジェが向かい合ったこのアートワークは、ポスト・インターネット的なデジタル・ナルシスと、モノ的・ゴースト的な感覚が横溢するいまの時代の美意識を、その音楽とともに見事に表象している(インターネットとは、いうならば自分自身の鏡だ)。本作もまたOPNやアルカなどと同じく「音楽であって音楽ではない/ポスト・インターネット時代特有のサウンド・オブジェ」なのである。まさに2015年を象徴するアルバムといえよう。

デンシノオト