Home > Reviews > Album Reviews > Konono N°1- Konono N°1 meets Batida
クラップ・クラップの『タイー・ベッバ』(2014年)の評価とともに、トロピカル・ベースという言葉も広まってきた。マーラの『マーラ・イン・キューバ』(2012年)あたりから、UKベース・ミュージックとグローカル・ミュージック(辺境音楽)の融合がクローズ・アップされ、そうしたところから名づけられた造語だ。そして、こうしたトロピカル・ベースはいまやUKだけでなく、世界各地から発信されている。たとえばアルゼンチンのデジタル・クンビアなど、トロピカル・ベース以前から民族音楽とダンス・ミュージックの融合は世界のいろいろな場所に存在していたが、2015年にリリースされた作品ではンボングワナ・スターの『フロム・キンシャサ』がとくにおもしろかった。スタッフ・ベンダ・ビリリというコンゴ共和国の音楽集団の中心メンバーが、レ・リタ・ミツコやトニー・アレンとも活動してきたフランスのDJ/プロデューサー/ドラマーのドクトール・Lと組んだユニットである。スタッフ・ベンダ・ビリリはコンゴのキンシャサで路上生活を営むボリオ障害者とストリート・チルドレンからなるバンドで、ベルギーのアクサク・マブールのヴァンサン・ケニスに見出され、その盟友マルク・オランデルが主宰する老舗〈クラムド・ディスク〉からアルバムをリリースしている。
〈クラムド・ディスク〉には他にもコノノ・ナンバーワンというコンゴのグループがいて、こちらはアンゴラ国境付近のバゾンボ族の居住区域出身の音楽集団だ。マワング・ミンギエディを中心に1966年頃からストリートで活動し、アンプに繋いだリケンベ(親指ピアノでアフリカの地域ごとにカリンバ、ムビラ、サンザとも呼ばれる)や廃品を用いたパーカッションにシンガーやダンサーが絡むそのサウンドは、人力トランスとも評される。2004年に〈クラムド・ディスク〉から発表したファースト・アルバム『コンゴトロニクス』で世界的に注目され、ビョークとのコラボ、ハービー・ハンコックが企画したイマジン・プロジェクトへの参加、グラミー賞ワールド・ミュージック部門でのウィナー獲得など、さまざまな話題を提供してきた。『コンゴトロニクス』は〈クラムド・ディスク〉のシリーズに発展し、コンゴの5つの部族が集まったカサイ・オールスターズも生まれた。コノノとカサイが合体したコンゴトロニクス名義での活動、ディアフーフ、アニマル・コレクティヴ、フアナ・モリーナ、シャクルトン、アクサク・マブールなど世界中のインディ・ロック~エレクトロニック・アーティストが組んだロッカーズとのセッションなど、次々と刺激的な試みを行っている。マワング・ミンギエディは2009年にグループのリーダーの座を息子のアウグスティン・マクンティマ・マワングへ譲り、自身は隠居して2015年4月に亡くなったが、その直後に発表されたンボングワナ・スターの『フロム・キンシャサ』でも、コノノ・ナンバーワンは1曲に参加している。そして、今回発表する新作はポルトガルのバティーダとの共作である。
バティーダはポルトガルのDJ/プロデューサー/ミュージシャンであるムピューラことペドロ・コケォンによるユニットだが、彼の出身地はアフリカ南西部のアンゴラ共和国で、そこにはクドゥロという特有のストリート・サウンドが存在する。アンゴラの民族音楽であるセンバはじめ、アフロビートなどアフリカ音楽、ズーク、カリプソ、ソカなどカリビアンと、欧米から輸入されたヒップホップ、グライム、テクノ、ハウス、ダンスホールなど各種クラブ・サウンドを融合したもので、デジタル・クンビア、レゲトン、バイレ・ファンキなどとの共通項も見出せる。ブルカ・ソン・システマの活躍などでクドゥロはヨーロッパにも広まっているが、バティーダもこのサウンドに基づいてUKの〈サウンドウェイ〉から2枚のアルバムを発表している。そんなコノノ・ナンバーワンとバティーダが本作の中で激突する。
電化リケンベの歪んだ音色が独特のサイケデリック感覚を呼び起こし、アフリカ音楽ならではのポリリズムにデジタルなダンス・ビートを結びつけた“ンレレ・カルシムビコ”や“キンスムバ”。クラップ・クラップのような密林系トロピカル・ベースの“ヤムバディ・ママ”。シンプルなビートにヴォイスとハンド・クラップのみの構成ながら、とてつもなく強力なグルーヴを作り出す“ボム・ディア”。トランシーな中にもアフリカ音楽が持つ牧歌性や瞑想性も感じさせる“トコランダ”。アフリカン・ブルースとグライムが出会ったような“ンゾンジング・ファミリア”。歌と踊りと演奏が一体となってシャーマニックな空間を作り出す“クナ・アメリカ”。ほとんどトライバルなビートのみで表情豊かなサウンドを作り出す“ウム・ンゾンジング”。ストリート・サウンド育ちの両者ならではの熱気が込められ、サウンドの中に没頭できるこのトランシーなエレクトリック・アフロ・アルバムは、クラップ・クラップの『タイー・ベッバ』やンボングワナ・スターの『フロム・キンシャサ』に続き、民族音楽とクラブ・サウンドが理想的な形で結び付いた新たなスタンダードとなるのではないだろうか。
小川充