ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  2. ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代──あるDJの証言
  3. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  4. Arab Strap - Half-Told Tales | アラブ・ストラップ
  5. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  6. interview with Adrian Sherwood and Nightmares On Wax UKダブ・“トーク”・セッション | ――エイドリアン・シャーウッド×ナイトメアズ・オン・ワックス特別対談
  7. Protomartyr - Hotel Usona | プロトマーター
  8. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  9. Marcellus Pittman ──デトロイト・ハウス珠玉の逸材、マーセラス・ピットマンの来日ツアーが開催
  10. Helen - Linda's Head | ヘレン
  11. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  12. METHOD MOTEL - @名古屋・栄CENTRAL
  13. ゲーセン波乱万丈の100年史
  14. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  15. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  16. The Alchemist ──現代USヒップホップのキーパースン、ジ・アルケミストが来日
  17. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  18. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  19. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  20. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum

Home >  Reviews >  Album Reviews > Cavanaugh- Time & Materials

Cavanaugh

Hip Hop

Cavanaugh

Time & Materials

Mello Music Group

HMV Amazon

三田格   Jun 02,2016 UP

 J・G・バラードのことを久しぶりに思い出したのはジャム・シティ『クラシカル・カーヴス』を聴いた時だから4年も前のことになる。それはそれだけのことかと思っていたのだけれど、去年になって『マッドマックス 怒りのデスロード』はJ・G・バラードの世界観をストレートに映像化したものだという批評を目にしたり、B級映画しか撮らないと思っていたベン・ウィートリーが『ハイ・ライズ』をクローネンバーグばりにみっちりと映画化したりということが続くと、さすがにそれだけのことではないのかなという気分になってくる。そこへキャバノーである。

 スフィアン・スティーヴンスらとシジファスを組んでいたことでも知られるセレンゲティが同じシカゴのオープン・イーグル・マイクと新たに結成したヒップホップ・ユニットのデビュー作。これがまたタイトルからしてそれである。「時間と物質」が無尽蔵の記憶として蓄積された砂漠に緩慢な速度で向かうこと。いわばエントロピーの増大がエロチィシズムと結びつく時、J・G・バラードの「生」は異様な歓喜とともに呼び覚まされる。冷戦時代の再来とともに「終末感」も更新されつつあるということなのか。だとすれば、それは核戦争の予感なしに現代人は生きられないということであり、世界がフラットではなくなりつつあることを示唆しているのかもしれない。現代は「自由」ではなく「監視」、「平等」ではなく「格差」、「博愛」ではなく「ヘイト」だと指摘したのは西部邁だったけれど、「監視」も「格差」も「ヘイト」も生前のバラードがすでに作品のテーマとしていたことである。

 キャバノーのサウンドは妙に快楽性を伴っている。トラップをスクリュードさせたシカゴ南部のサウンドはチーフ・キーフ以降、ドリル・ミュージックと呼ばれるようになり、彼らはこれにもう少しヒネリを加えていく(セレンゲティもオープン・マイク・イーグルもソロではここまでトリップ・モードではなかった)。それによって与えられるニュアンスは逃避というよりセラピー的だとする評もあり、歌詞は断片的にしかわからないので、サウンドに的を絞ると、思い出すのはやはり〈アンチコン〉である。セレンゲティは〈アンチコン〉のホワイ?ことヨニ・ウルフともほぼ同時期にジョイント・アルバム『テスタロッサ』をリリースしていて、〈リーヴィング〉から新作を放ったオッド・ノズダムといい、マイク・パットンらと新たにネヴァーメンを組んだドーズ・ワンといい、少なくともセレンゲティが〈アンチコン〉のセカンド・レイズに歩を揃えていることは間違いない。スモーカーズ・デライトというよりはモゴモゴと燻るハッパが燃え尽きるのを見守るかのように、どこか儚く、何もかもが簡単に視界から消え去っていく(全部で26分しかないし)。

 ゼロ年代初頭に〈アンチコン〉と連動していたのもシカゴ周辺のアトモスフィアだった。カニエ・ウエストが去ったシカゴはここ数年、チーフ・キーフやチャンス・ザ・ラッパーによって新時代を迎え、ここにまたオープン・マイク・イーグルとセレンゲティがオルタナティヴの橋頭堡を築こうとしている。ミック・ジェンキンズも同じくで、こちらはもっと展開が派手。こういう人もいる。シティーズ・エイヴィヴ、フロストラダムス、ミック・ジェンキンズ、マンマンサヴェージ……実験的過ぎてもうひとつ浮上できなかったクウェルやモールメンといった過去の亡霊とイメージがダブるほど彼らの試行錯誤はどこまでも果てしない。シカゴという街はどうしてもそういう場所なのだろう。

三田格