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Max Graef & Glenn Astro

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小川充   Jun 23,2016 UP

 以前、ボイラールームでのマックス・グレーフのDJセットを見たが、アナログ盤を使ってのプレイで、前半に回していたのは1970年代のジャズやフュージョンのレコードだった。その後はジャジーなビートダウン系のディープ・ハウスへ変わり、またブギーやフュージョン・ディスコへ戻るという流れでやっていたが、モーター・シティ・ドラム・アンサンブルがよりジャズ寄りになった感じだろうか。そのDJセットは、彼がファースト・アルバムの『リヴァーズ・オブ・ザ・レッド・プラネット』をリリースした2014年のもので、アルバムもジャズやファンクの影響が色濃いディープ・ハウス集である。いや、割合的には四つ打ちのハウスはごく一部で、アブストラクトなダウンテンポやヒップホップ、ファンク系にエレクトロ、ブロークンビーツのような変則ビート、中近東の歌謡曲(?)をサンプリングした曲など幅広くやっていた。ムーディーマンやセオ・パリッシュからヴァクラ、それとフローティング・ポインツの間に位置するようなレコードという印象を持ったのだが、ドイツのベルリンを拠点に活動するマックス・グレーフは単にDJ/プロデューサーだけでなく、ベースも演奏するミュージシャンでもある。

 彼はマックス・グレーフ・バンドを組んで活動も行い、2015年末に『ドッグ』というアルバムも出している。完全な生演奏のジャズ・ファンク・バンドで、そこでの楽器の音色や演奏、レコーディング・スタイルなどは、やはり1970年代をイメージさせるものだった(楽器や機材もその頃の古いものを使っているのではないだろうか)。そんなアナログなスタイルのマックス・グレーフが、今度はグレン・アストロというプロデューサーとのコラボで新しいアルバム『ザ・ヤード・ワーク・シミュレーター』を作った。グレン・アストロことジェラルド・アストルは、マックスと共同でレーベルの〈マネー・セックス〉を運営しており、『ドッグ』もそこからのリリースだ。『ドッグ』にもグレンはエディットで参加しており、いままでにもコラボしたシングルを発表している。タイプ的にはグリッチ~ヒップホップ系のトラックメイカーだが、やはりマックス同様にジャズやジャズ・ファンクの影響が強く、作るトラックも幅広いビート・パターンを持つ。だから両者は馬が合うのだろう、今回はアルバム一枚で丸々コラボを行っている。

 『ザ・ヤード・ワーク・シミュレーター』は全部で10曲を収録し、マックスによると「ありきたりな素材は使わず、いままでにないダンス・レコードを作りたかった」という視点から生まれている。制作メモによれば、「これはコンセプト・アルバムのようなもので、先にトラック・リストがあり、それに当てはまるように楽曲を制作していった。曲ごとに方向性とサウンドのリストがあって、一曲ずつ制作していったんだ。ほとんどリアルに録音されたものでサンプルではないよ。ハーモニー、テーマ、コード進行には特に配慮したね」ということで、まるでサントラのように最初の制作段階でイメージがあり、それに沿って曲を作っていったということらしい。マックス自身や周囲のミュージシャンが新たに演奏したものを録音し、それら素材をマックスとグレンが再編集していくというプロセスから生み出されたこれら作品は、たとえば表題曲に顕著なように生音素材ゆえの微妙な音の揺らぎやズレがあり、ときに不調和でねじ曲がっていたりする。そうしたものこそがジャズやファンクのよさであり、彼らが好む1970年代の音にはそれがあった。

 今回は比較的四つ打ちやハウス・ビートと結び付いた曲が多くなっていて、それはダンス・レコードを作るという方向性がそうさせているのだろう。演奏そのものはけっして技巧的に優れたものではなく、ときどきキーを外していたりする。でも、そうしたミス・テイク的なものもそのまま素材として用い、それによってダンス・ミュージックが持つ衝動性や野性的な魅力が生れているのではないだろうか。ディープ・ハウスとリターン・トゥ・フォーエヴァーかウェザー・リポート、またはアジムスが融合したような“マジック・ジョンソン”は、アルバムの方向性を象徴する1曲だ。でも、こうしたジャズの生演奏とディープ・ハウスが融合したような曲は1990年代にはけっこうあったもので、時代がひと回りしたのかなという気もする。実際、冒頭で述べたマックスのDJセットも一昔前のスタイルであるが、最近は彼のように逆にアナログ盤でDJをする若い人も増えてきているという話を耳にする。そして、この『ザ・ヤード・ワーク・シミュレーター』を聴いていると、やはりこれはアナログ盤向けの音楽だなと思う。

小川充