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The Gaslamp Killer

Hip HopPsychedelic

The Gaslamp Killer

Instrumentalepathy

Cuss Records

Tower Amazon

小川充   Nov 17,2016 UP

 現在のLAのビート・シーンがクローズ・アップされるきっかけを作ったひとつに、ダディ・ケヴが主催するパーティーのロウ・エンド・セオリーがある。DJとミュージシャンによるライヴ、さらにライヴ・ペインティングなどを組み合わせた複合イベントで、2000年代後半には世界的に注目を集めるようになっていった。そこでレジデントDJを務めたのがガスランプ・キラーことウィリアム・ベンスーセンである。もともとサンディエゴのガスランプ地区でヒップホップDJとしてスタートした彼は、ロサンゼルスに移住してからはヒッホップに加えてジャズ、ファンク、ロック、サイケなどのロウなサウンドと、エレクトリックなベース・サウンドやIDMをミックスし、ヘヴィでダークで幻覚的な世界を作り出していく。既にDJとして絶対的な評価を得るようになっていた彼は、2012年にフライング・ロータスの〈ブレインフィーダー〉からデビュー・アルバム『ブレイクスルー』を発表する。デイダラス、ミゲル・アトウッド=ファーガソン、ゴンジャスフィ、コンピューター・ジェイ、エイドリアン・ヤング、ザムアイアム、シゲト、ディムライトらが参加し、ヒッピホップ、グリッチ・ホップ、IDMを土台としたビートメイキングに、コズミックなエレクトロニック・サウンドやディープ・ファンク、サイケデリックなモチーフをコラージュしたこのアルバムは、サン・ラー・アーケストラの世界観を現代に引き継ぐものだった。アトウッド=ファーガソンのヴァイオリンをフィーチャーした“フランジ・フェイス”が絶品だったほか、“アパレーションズ”や“ニッシム”のようなエチオピア・スイタイルのジャズ、中近東風作品が印象的だった。

 2015年には自身のレーベルから『ライヴ・イン・ロサンゼルス』を発表するが、これはガスランプ・キラー・エクスペリエンスというバンドを率いてのライヴ録音で、LAジャズ・シーンの若手ミュージシャンが大挙参加している。顔ぶれはカマシ・ワシントン、デクスター・ストーリー、トッド・サイモン、アミール・ヤマグチなどで、ちょうどカマシが『ジ・エピック』でブレイクしたこともあり、そうした流れとも合流する作品だった。『ブレイクスルー』の収録曲も演奏しているが、ライヴ・アルバムということもあり、ジャズの生演奏の度合が強まった印象だ。ガスランプ・キラーの次のステップがどうなるかを予感させていたのだが、そうした中で新しいアルバム『インストゥルメンタルパシー』がリリースされた。今回の参加者はミゲル・アトウッド=ファーガソン、ゴンジャスフィ、アミール・ヤマグチ、MRR(マイケル・レイモンド・ラッセル)など『ブレイクスルー』にも参加した馴染みの面々に、ヒーリオセントリックスなどで知られるドラマーのマルコム・カトゥー(彼は昔からMRRともセッションしており、今回はMRRと一緒に参加している)。人数的にはより少数精鋭となり、『ブレイクスルー』の世界観をより凝縮させた方向へ導いたアルバムである。『ブレイクスルー』は全体的に荒々しくてローファイな印象が強く、本作では“グッド・モーニング”や“シュレッド・ユー・トゥ・ビッツ”などがその系統となるが、一方“パセティックス・ドリームズ”のようなアンビエントで繊細な作品もあり、表現の幅が広がっていることも示す。『ライヴ・イン・ロサンゼルス』でのライヴ・パフォーマンスの延長線上にあるのが“ウォーム・ウィンド”で、エチオピアン・ジャズとジャズ・ファンク、ジャズ・サンバにサイケデリック・ファンクと様々な要素が結びついた作品だ。“ガーマラサー・キル”もエキゾティックなモチーフに溢れたファンク・サウンドで、“ハレヴァ”のギターの音色は中近東のウードのようだ。このあたりはLAシーンとも結びつきの深いエチオ・ジャズの祖、ムラトゥ・アスタトゥケからの影響を感じさせる。“ライフ・ガード・タワー #22”や“リッスン・フォー・マイ・ホイッスル”のストリングスほか、全体にワールド・ミュージック的なエッセンスが感じられるのも本作の傾向と言えるだろう。北アフリカや中近東のモチーフを取り入れたジャズやディープ・ファンク、サイケ・サウンドは、2000年代半ばよりヒーリオセントリックスなどもやってきており、US西海岸でもマッドリブやイーゴン、ラスGなどにもその影響が表われていた。そうした点で本作のアプローチ自体は特別に目新しいものではないが、デクスター・ストーリーの新しいアルバム『ウィンデム』もエチオ・ジャズの影響が色濃く、『インストゥルメンタルパシー』は現在のLAシーンの傾向のひとつを示す作品だと言えよう。

小川充