Home > Reviews > Album Reviews > L.A. Witch- L.A. Witch
エレキング読者がカリフォルニアと聞いて思い浮かべるのは、フライング・ロータスだろうか。いや、ファッションが好きなご年配の方ならアナーキック・アジャストメントかもしれない……なんてことを徒然と考えながら書いてるが、筆者はどちらでもない。カリフォルニア州ロサンゼルスのロック・シーンを追っているからだ。
最近のLAロック・シーンには面白いバンドがたくさんいる。ラテンノリのポスト・パンク・サウンドが売りのシスター・マントス、パンクとクンビアを掛け合わせたザ・コモンズ、モデルのスタッズ・リンデス率いるザ・パラノイズ、ファッション・ブランドのプリティー・グリーンによるキャンペーン・ヴィデオで曲が起用されたウォーブリー・ジェッツなど、早耳の音楽ファンなら誰もが知るバンドがずらりと並ぶ。
なかでもザ・パラノイズは、エディ・スリマンがお気に入りということもあって、ファッション・アイコン的な人気もあるバンドだ。ささくれ立ったラウドなギター・サウンドも好評で、ダイヴのサポート・バンドとして全米各地を巡っている。ロックの影響力は弱まりつつあると言われて久しいが、ロックの虜になる者たちは今も世界中で後を絶たない。
そんなLAロック・シーンから、またひとつ面白いアルバムが生まれた。『L.A. Witch』と名付けられたそれは、L.A.ウィッチというバンドによるものだ。
L.A.ウィッチは、セイディ(ヴォーカル/ギター)、イリータ(ベース/オルガン)、エリー(ドラム)の3人組。2012年にシングル「Your Ways」を自主制作でリリースした彼女たちは、その後しばらくはレーベルをつけずに活動し、多くのライヴを重ねてきた。
そうした彼女たちに目をつけたのが、アイアン・アンド・ワインやヘルスなどの作品をリリースしてきた〈Suicide Squeeze〉だ。いくつかのプロモ盤を配ってサポートしつつ、彼女たちにデビュー・アルバムである『L.A. Witch』を作らせた。「Your Ways」から約5年の歳月が経ってのリリースと考えれば、それなりの下積み期間を積んだうえでの制作と言える。
このような道程の末に生まれたデビュー・アルバムは、彼女たちの魅力が詰まった最良の作品に仕上がった。ザ・ガン・クラブといったLAの先達パンク・バンドに通じるサウンドを匂わせつつ、ザ・ストゥージズを彷彿させるガレージ・ロックもあるし、ザ・クランプス直系のサイコビリーも見いだせる。そこにサイケデリックなフィーリングを少々振りかければ、L.A.ウィッチのサウンドは完成する。様々な要素で構成されているが、基本的には古のロック、それもアメリカを参照にした曲が多い。
一方“Drive Your Car”といった曲ではポスト・パンクの要素も見られ、ダークでゴシックな雰囲気を醸すサウンドは、初期のスージー・アンド・ザ・バンシーズを連想させる。このゴシックな側面は彼女たちに欠かせないもので、アーティスト写真、ツアー・ポスター、MVでもオカルトチックな色合いをたびたび強調している。これはおそらく、『サスペリア』などのホラー映画が好きだと公言する彼女たちの嗜好も影響してるだろう。音楽以外の要素も積極的に取り入れて表現するあたりは、ただの懐古趣味ではない今のセンスを持つバンドなんだなと実感する。
『L.A. Witch』を聴くと、他の音楽と同様ロックも更新されているというあたりまえの事実にあらためて気づく。先述したように、ロックはかつての強い影響力を失ったが、ロックそのものは今も存在する。メディアが騒ぎ立てなくなったことが、そのジャンルの死を意味するわけではないのだ。
近藤真弥