ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Black Country, New Road 脱退劇から一年、新生BCNRのドキュメント | ブラック・カントリー・ニュー・ロード (interviews)
  2. interview with Lankum トラッド・イン・プログレス | ──アイリッシュ・フォークの最前線に立つランクムの驚異の新作 (interviews)
  3. interview with Shuhei Kato (SADFRANK) これで伝わらなかったら嘘 | NOT WONKの加藤修平、日本語で歌うソロ・プロジェクトSADFRANKを始動 (interviews)
  4. Jungle ──UKの人気エレクトロニック・ダンス・デュオ、ジャングルによる4枚目のアルバム (news)
  5. Kassel Jaeger - Shifted In Dreams (review)
  6. Tribe Original Metal Lapel Pin ──70年代デトロイトのジャズ・レーベル〈トライブ〉、そのオフィシャル・ピンバッジが登場 (news)
  7. Optimo Music ──〈オプティモ〉からアナーコ・パンクのコンピが登場 (news)
  8. Columns talking about Yves Tumor イヴ・トゥモアの魅力とは何か | Z世代のyukinoiseとarowが語り尽くす (columns)
  9. Pardans - Peak Happiness | パーダンス (review)
  10. Alice Phoebe Lou ──ベルリンの路上から世界へ:南ア出身のSSWアリス・フィービー・ルー来日直前インタヴュー (news)
  11. Peterparker69 - deadpool (review)
  12. U.S. Girls - Bless This Mess | ミーガン・レミー (review)
  13. 燻裕理 ──日本のアンダーグラウンド・ロックのリジェンドがソロ・アルバムを発表 (news)
  14. Alva Noto ──アルヴァ・ノトの新作『太陽の子』は演劇作品のための音楽集 (news)
  15. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか (columns)
  16. Kassem Mosse - workshop 32 | ガンナー・ヴェンデル、カッセム・モッセ (review)
  17. Wendell Harrison & Phil Ranelin ──70年代デトロイトのジャズ・レーベル、〈Tribe〉の代表作が豪華仕様で大復刻 (news)
  18. JULY TREE ──渋谷に音楽をテーマとした小さなギャラリーがオープン、第一回目は石田昌隆の写真展 (news)
  19. Tribe Original Metal Lapel Pin (news)
  20. LEX - King Of Everything (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Giggs- Wamp 2 Dem

Giggs

Hip HopRap

Giggs

Wamp 2 Dem

No BS Music / Island

Tower HMV Amazon iTunes

米澤慎太朗   Dec 08,2017 UP

 自分がMSCとか、SATELLITEとか、日本の「ギャングスタ・ラップ」を初めて聞いたとき、言葉は完璧に聞き取れるが、歌詞の意味は全く分からなかった。一聴平易な言葉遣いだが、ギャングスタの話法で語られるために、ストリートの外側には言葉が意味をなさない。それは「普通の言葉」に別の意味を重ねることによって、エリアの抗争・ドラッグディールといった内容を隠すことができる。彼らのダブルミーニング・比喩は、揉め事を回避するテクニックであり、ユーモアであり、エンターテインメントである。ここに紹介するUKのラッパー「ギグス」による最新ミックステープ『ワンプ・トゥ・デム(Wamp 2 Dem)』は、UK流の「ギャングスタ」の巧みな言葉遊びとストーリーを感じることができる。

 ギグスを〈XL Recordings〉に紹介したマイク・スキナー(ザ・ストリーツ)は彼のことをこう表現した。

ギグスは突如として現れ、一切妥協なしのリアルなストリートの話をスピットした、最初のUKギャングスタ・ラッパーだ。――マイク・スキナー

Don't Call It Road Rap

https://www.youtube.com/watch?v=xn-70oSrLgA

 ギグスは真のギャング上がりだ。10代の頃は、南ロンドンのペックハム・ボーイズ傘下のSN1に加入しギャングのメンバーとして活動しながら、ストリートでの高い人気から2009年に〈XL Recordings〉と契約し2枚目のアルバムをリリースした。しかし、彼は警察の圧力で出演を中止させられ、メディアに取り上げられることも少なかった。
 こうした状況を変えたのは、2013年頃から出てきたGRMデイリー(GRM Daily)、リンク・アップ・ティーヴィー(Link Up TV)といった動画メディアであった。彼らはギグスをはじめとするギャングスタ・ラッパーのミュージック・ビデオを制作し、世界に公開した。
 昨年リリースされた待望の5枚目のアルバム『ランドロード』のヒット、そしてドレイクのアルバム『モア・ライフ』への参加は、UKラップの盛り上がりに火を付けた。しかし、一部のアメリカのラップ・ファンからはギグスのラップを「退屈だ」と批判したり、「ヒップホップの物真似だ」と揶揄したりする声が彼自身にも届いた。このビデオでは、彼自身に向けられたディスに対する怒りを隠さない。

 前置きが長くなったが、本作『ワンプ・トゥ・デム』(ジャマイカの英語「パトワ」で「What happened to them? (彼らになにがあった?)」)は、「ギグスら」を攻撃する「彼ら」をポップカーン、ヤング・サグら第一線のラッパー・歌い手とともに皮肉っぽくたしなめる。

くだらないトークショーはクソだ、奴らは吸いまくってる
あいつらは今や文無しだ、奴らのただ男同士のオナニーだ
奴らはマカーレーを見ながら、コカイン吸ってるだけだ * ――“Ultimate Gangsta feat. 2 Chainz”

* マカーレーとは、アメリカの俳優、マカーレー・カルキン(Macaulay Culkin)のこと。「コカインを吸う(Niggaz is coking)」とマカーレー・“カルキン”の言葉遊びでもある。

 目下クラブヒット中の6曲目“リングオ”のフックは、彼らの「言葉」に焦点を当てている。

ウィングにいる仲間に感謝
別の仲間は道を歩く、合法的に
2人のビッチがキス、まるでバイリンガル
奴らは俺の言葉(“Linguo”)がわからない
ブラッ、ブラッ!
そう、それが俺の着信音
俺はピンクの札束を持ち歩く
ベイビー、プッシーをこっちに寄越しな
「あのこと」については気にしなくていいぜ
――“Linguo feat. Donae'O”

 ウィング=刑務所、ピンクのお金=50ポンド紙幣と言った言い換えは、彼ら独特の「言葉」である。そして文字通り、スラングがわからない「奴ら」とは、他のエリアのギャングであり、アメリカでギグスを批判するラップ・ファンのことを言っているのかもしれない。10曲目“アウトサイダース”では、ギグスが南ロンドン、客演のグライムMC、ディー・ダブル・イー(D Double E)&フッチー(Footsie)が東ロンドンをそれぞれ代表し、知ったかぶる「部外者」を口撃している。
 歌詞が聞き取れなくても、ギグスの低くホラーな声、ゆっくりと間を取ったフロウ、冷たいメロディとハイハットは十分魅力的だ。ロンドンのギャングスタのスカしてない「マジな」ラップが聴きたければ、この1枚がぴったりだ。

米澤慎太朗