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三田格 Jun 27,2018 UP
ジャカルタの〈DIVISI62〉とデュッセルドルフでドントDJが主宰する〈Diskant〉傘下〈DISK〉の共同リリースとなるガムラン・テクノの4曲入りコンピレーション。ドントDJはキャリアも長く、そう簡単には紹介し切れないプロデューサーで、2016年にソロでリリースしたセカンド・アルバム『Musique Acephale』ではアシッド・ハウスやテクノにガムランを融合させることで新たに注目を浴びた存在。その彼(フローリアン・マイヤー)がその時からインスピレーションを得ていたのか、その後に育まれた縁なのかはわからないけれど、インドネシアでガムランをベースにテクノをつくっている3組をまとめて紹介するのは、ごく自然な成り行きといえる。3組とも男性なのか女性なのかもよくわからんちんですが、逸早くブルックリンのレーベル〈Maddjazz Recordings〉からヒップホップ風のトラックでデビューしていたWahonoと、その WahonoがRMPと組んだMarsesura 、そして、ここでは2曲を提供しているUwalmassaの3組がそれ。ざっくり言えばWahonoとUwalmassaが中心人物なんでしょう。コンピレーションのテーマは都会のスラムとダンドゥットと呼ばれるインドネシアの音楽、そして、シラットという武術だそうです。そう言われても何もイメージできませんが。
まずはティンバランドのチキチキにガムランとフルートを載せたMarsesuraがオープニング。
パーカッションだけのゆっくりとした展開から呪術的なムードはばっちしで、続くUwalmassaの“Untitled 10”ともども23スキドゥー『アーバン・ガムラン』(84)を思い出すなと言う方が無理だろう。ドントDJが持ち込んだテクノやアシッド・ハウスの要素はスパッと捨て去られ、あくまでもガムランの音だけで現代的な再構築が試みられている。Bサイドに移って”Untitled 06”ではヴォイス・サンプルも用いられ、シャックルトン式のダブステップに通じるものがあると指摘する声も(なるほど)。最後のWahonoは最も音数が多く、派手に鐘の音が叩き鳴らされる。ストイックなのに快楽的というか。
カンとベーシック・チャンネルの出会いなどと評されたドントDJのサウンドにはガムランだけでなくアフリカのリズムも聞き取れる。「Animisme」と同時に〈DISK〉からリリースされたバンボウノウ「Parametr Perkusja Ep」はむしろアフリカ寄りで、フレンチ・フライと共にパリからベース・ミュージックの担い手として登場したバンボウノウがいつの間にかアフリカとベース・ミュージックの橋渡し役になっていることに気がつかされる。とくに“Dernier Metro”が「Animisme」に勝るとも劣らないヒプノティックなミックスを聞かせ、ドントDJとの連携にも納得がいく。
アフリカン・ビートといえば、ラムジーがやはり強力だった。ジョン・ハッセルのレヴューで触れた「ミュージック・フロム・ザ・フォース・ワールド 1983-2017」のコンパイラーでもあるファーガス・クラークがグラスゴーで主宰する〈12th Isle〉はクルー・サーヴィスやパルタなど新たな才能の集積地となりつつあるけれど、とりわけラムジーことフィービー・ギラモトーの5作目『Pèze-Piton』はアフリカン・リズムとハウスを組み合わせたものとしてはなかなか聞き応えのあるものになっていた。名前から察するにケベックのミュージシャンなのか、彼女の叩き出すビートはやはりフランスでアフロ・ハウスを先導してきたアルビノスやブラック・ゾーン・ミス・チャント(ハイ・ウルフ)を踏まえつつ、より複雑に展開させたものに聞こえるし、ふわふわとした質感には独特のものがある。
アフリカだけでなく、ラムジーの志向はサンバをはじめとするブラジル音楽にも向いているようで、全9曲はとてもバラエティに富んだ作品性を示している(エンディングは中華風)。あるいは80年代のリジー・メルシエ・デクローを思わせる無国籍志向と呼んだ方がいいか。少し前のリリースだけど、せっかくなので併せて紹介しておきたい。
ドイツのバレエが精神性を重んじた観念的なものに向かい、フランスのそれが官能的な性格を帯びるように、等しくワールド・ミュージックにアプローチしても、ドイツはストイックで、フランスは楽しさを手放さないという対比も興味深いところ。
三田格