Home > Reviews > Album Reviews > Kokoko!- Fongola
エボラ出血熱ではない。はしかでもない。戦争でもなければ性暴力でもなく、なんというかこう、もっとポジティヴなニュアンスで最近「コンゴ」という単語を目にする機会が多い。別エレ最新号をつくる過程で久しぶりにDRCミュージックを聴き返したというのもある。あるいは先月来日を果たしたキシ。彼女は幼いころに旧宗主国たるベルギーへと移住しているから、現地の空気にどっぷりというわけではなかったんだろうけど、それでも音楽に興味を持つきっかけになったのはルンバ・コンゴレーズやドンボロだったと語っているし、それこそ『7 Directions』のテーマは植民地化される以前、かの地に存在していたという部族「バントゥ・コンゴ」とコスモロジーを接続させることだった。なぜだか最近「コンゴ」がキイワードになっている。
首都キンシャサのブロック・パーティのなかで産声をあげたコココ!は、通常のバンドとは異なり、楽器の発明家たちをそのおもな構成員としている。グループ名はリンガラ語で「ノック、ノック、ノック」を意味し、そこには「ドアを開けて自分たちの音楽に触れてもらいたい」という彼らの願いがこめられている。唯一西洋からの参加者であるデブリュイことグザビエ・トマはブリュッセルを拠点に活動しているプロデューサーで、彼が映画制作会社のベル・キノワーズとともにキンシャサを訪れた際に路上でパフォーマンスする発明家たちと出会い、2016年の夏、コココ!が結成されることになった。
最初に完成した曲だという“Tokoliana”は2017年6月にシングル化され、彼らの記念すべき最初のリリースとなる。その後セカンド・シングル「Tongos'a」を挟み、翌2018年にはリスボンのDJマルフォックスやダーバンのシティズン・ボーイを招いたリミックス盤を発表、見事昨今のトレンドへの合流を果たす。そのままサード・シングル「Azo Toke」や初のEP作品「Liboso」を送り出し、今年に入ってからもシングルを連発、かくしてお目見えとなったのがこのファースト・アルバム『Fongola』だ。
コココ!のメンバーはフランコ&OK・ジャズやパパ・ウェンバといったコンゴのレジェンドたちから影響を受けているとのことで、たしかに部分的にそれらしき要素がにじみ出ている、ように聞こえなくもない、が、それ以上に注目すべきなのは、彼らの驚くべきDIY精神だろう。RAのセッション動画を見ればわかるように、コココ!の面々は空き缶やペットボトル、タイプライターやトースターを楽器として用いている。それだけではない。本作を録音するにあたって彼らは、なんとスタジオまで自作してしまっている(素材は卓球台とマットレス)。
彼らがそのように日常的なマテリアルを楽器として用いるのは、けっして奇をてらっているわけではなく、そもそもコンゴでは楽器が異様に高いという理由からだ。かつてフライング・リザーズもドラムのかわりに段ボールを叩いていたけれど、じっさいに手に入るか入らないかというのは大きなちがいだろう。レンタルですらとうてい手が届かない値段だそうで、おまけにかの地はしょっちゅう停電に見舞われるらしく、ゆえにコココ!は身のまわりにあるもの、路傍で拾ったもので音楽をつくりあげなければならなかった。そんな彼らの創意工夫を最大限に活かすためだろう、デブリュイによるシンセもできるだけ簡素に、良い意味でチープな音を繰り出している。
冒頭“Likolo”や“Azo Toke”、ダンサブルな“Buka Dansa”や“Malembe”といった前半の曲たちが体現しているように、アフリカンなヴォーカル、ミニマルな各種パーカッションと、ダブやベース・ミュージック、ハウスなどの手法との組み合わせがこのアルバムの基調を為しているが、他方でひたすらストレンジなムードが続く“L.O.V.E.”や、陶酔的なベースラインの反復とギャング・オブ・フォーを思わせるギター(??)との対比が強烈な“Tongos'a”、加工されているのか生で発せられているのか判然としない独特のヴォーカルがクセになる“Zala Mayele”など、さまざまなアイディアでリスナーを楽しませてくれる表情豊かな1枚に仕上がっている。なかでももっとも彼らの真髄を堪能させてくれるのは、やはり、最初につくられたという“Tokoliana”だろう。この曲をミラ・カリックスがサンズ・オブ・ケメットに接続したのも頷けるというか、ベースラインやダビーなドラム処理が高らかに告げているように、これは、まさしくポストパンクである。
彼らの創意工夫の背景にはもちろん、政治的に困難なコンゴの情勢が横たわっている。西洋のアーティストが趣向を凝らそうとして楽器以外のものに手を出すのとはわけがちがうのだ。だからコココ!の音楽は、DAWがあればいかようにもそれっぽい曲がつくれてしまう昨今の風潮にたいするオルタナティヴであると同時に、創意工夫を重ねなければならない状況へと彼らを追いやった社会なり世界なりにたいするプロテストでもある。
にもかかわらず。にもかかわらず、たとえば彼らのボイラールームでのパフォーマンスなんかを観ていると、怒りや抗議よりも圧倒的に、喜びや楽しみのほうが勝っているように感じる。なんというかこう、もっとポジティヴなのだ。きっとその正のオーラこそ、コココ!の音楽最大の魅力なんだと思う。
小林拓音