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D Smoke

Hip Hop

D Smoke

Black Habits

WoodWorks / Empire

Spotify 大前至   Mar 13,2020 UP

 昨年10月、Netflix にて配信されて話題を大きな呼んだラッパー・オーディション番組『Rhythm + Flow』にて見事、チャンピオンとなった D Smoke。LA・イングルウッドにて育ち、同番組出演時には地元の高校でスペイン語と音楽の先生を務めていたという彼は、同番組で終始圧倒的とも言える存在感を示し、コンテスト中に一部リリックを忘れるというミスを犯しても、審査員のひとりである T.I. に「最高のパフォーマンス」と言わしめるほどの実力の違いを見せた。特に最終回であるエピソード10にて披露した、Sounwave プロデュースによるオリジナル曲 “Last Supper” のパフォーマンスは非常に素晴らしい出来で、自らピアノを弾きながらラップする冒頭の部分から、ダンサーを交えたパワフルな後半のステージの流れまで全てが完璧であった。アーティストとしてのアティチュードや醸し出す雰囲気なども含めて、同じLAのゲットー出身である Kendrick Lamar と重なる部分もあるのだが、審査員からも高く評価されていた流暢なスペイン語を交えたバイリンガルでのラップなども彼の大きな魅力のひとつになっており、オリジナリティの高さは疑いようがない。ちなみに、番組中では伏せられていたが、Kendrick Lamar と同じ〈TDE〉の所属アーティストであるシンガーの SiR が彼の実弟であり、実兄もまた本名の Davion Farris 名義で2013年にメジャー・デビューを果たしている。そして、D Smoke 本人も20代前半のときに Jaheim のシングル「Never」(2007年リリース)のプロデュースを手がけるなど、実は10年以上に亘って音楽業界に携わっていたことが後に明らかになっている。現在、33歳という D Smoke であるが、『Rhythm + Flow』で掴んだ名声(と賞金25万ドル)を糧に、彼がこれまで積み重ねた経験とキャリアがこのファースト・アルバム『Black Habits』に込められている。

 『Rhythm + Flow』最終回の配信翌日にEP「Inglewood High」を発表した D Smoke であるが、タイトルにもある彼が務めていた高校での教師としての経験が反映されたこのEPと比べて、本作はより広い視点で描かれており、本人曰く「自らの家族の経験を通じたストーリー」がテーマになっているという。その証拠にアルバム冒頭の “Morning Prayer” での家族の会話であったり、あるいは曲間での刑務所に服役中の父親からの電話に母親が応答する場面など、彼の実体験と思われる描写が随所に見られる。一方で、『Black Habits』(=黒人の習慣)というタイトルが示す通り、本作で描かれているストーリーは家族という枠だけに留まらず、地元であるイングルウッドを含む、アフロ・アメリカン全体のヒストリーにも繋がっている。先行シングルとなった “No Commas” では、アフロ・アメリカンとしての不幸な宿命に対するある種の怒りが、ハードなウェストコースト・サウンドに乗せて強烈に放たれているが、そういったネガティヴな感情だけではなく、タイトル・チューンである “Black Habits I” などで表現されているように、そこにはアフロ・アメリカンとしての誇りと強いプライドがアルバム全体を覆っている。加えて、前述したスペイン語によるラップも本作にはスパイスとして効果的に盛り込まれ、知的なリリシストという彼の側面をより際立たせることにも成功している。

 アルバムのカバーは彼の幼少時代の家族写真だと思われるが、このうち父親以外の3名が本作に参加しており、これもまたアルバムのテーマに則している。母親である Jacki Gouche は『Rhythm + Flow』でも語られていたように Michael Jackson や Tina Turner のバックコーラスとしてのキャリアがあり、ゲスト参加した “Black Habits I” のフックでもしっかりと実力の高さを示している。タイトル通りの浮揚感漂う “Fly” での実兄 Davion Farris とのコンビネーションも見事であるが、やはり注目は SiR をフィーチャした2曲だ。オルガンのメロディが神々しい “Closer to God” も面白いが、個人的には〈TDE〉関連の作品にも多数関わっている J.LBS がプロデュースを手がけた “Lights On” に強く惹かれており、“The Look Of Love” のフレーズが絶妙に引用されたトラックに D Smoke の英語とスペイン語によるメロディアスなラップ、さらに SiR のコーラスも見事にハマって、ダンサブルでありながら、実に深く染み入る曲に仕上がっている。加えて、大物ゲストとして Jill Scott が参加した “Sunkissed Child” も Battlecat の手がけるウェストコースト・ヒップホップど真ん中なトラックも含めて最高に素晴らしいのだが、『Rhythm + Flow』にも審査員のひとりとして参加していた Snoop Dogg をフィーチャした “Gaspar Yanga” はさらにそれを上回る。日本人も含めてこれまでも複数のアーティストが使用してきたブルガリア民謡のサンプリングが実にインパクト大なこの曲であるが、Snoop Dogg、D Smoke それぞれがそのトラックを見事に乗りこなして、強烈なセッションを繰り広げる様は圧巻だ。

 ちなみに Spotify の再生回数などを見る限り、おそらく本作は期待していたほどの結果は残せていないと思われる。それは教師というキャリアを持つ彼ならではの真面目な部分がある種のマイナスに作用しているのかもしれないし、あるいは一部で言われているような Kendrick Lamar との類似性が足を引っ張っているかもしれない。とはいえ、その壁を超えるポテンシャルを D Smoke は確実に備えており、彼のさらなる魅力を次作でも披露してくれることを期待したい。

大前至