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フローティング・ポインツやヘンリー・ウーなどエレクトロニックなダンス・サウンドをリリースする一方で、ファティマのようなオーガニック・ソウルもリリースする〈イーグロ〉。今度〈イーグロ〉から新たに登場したナタリー・スレイドは、そのファティマの路線を引き継ぐようなシンガー・ソングライターである。彼女はオーストラリアのシドニー出身で、ヒップホップ系のプロデューサーであるレイ・ライアンと一緒にフランコというユニットを組んでいる。いわゆるヒップホップ・ソウル、エレクトロ・ソウルをやっていて、昨年は〈ロウ・キー・ソース〉というレーベルからEPリリースしている。そのほかスティーヴ・スペイセックが〈イーグロ〉からリリースした『ナチュラル・サイ・ファイ』(2018年)にも参加していて、そうした縁で今回のソロ・デビュー・アルバム『コントロール』のリリースに繋がったようだ。
アルバム・プロデュースはハイエイタス・カイヨーテ(編注:コーネリアスのリミキサーとしても知られる)のキーボード奏者のサイモン・マーヴィンが手掛けていて、その同僚であるベーシストのポール・ベンダーも楽曲によって参加している。ハイエイタス・カイヨーテ自体はここのところずっと作品のリリースがないが、昨年サイモンとポールはセオ・パリッシュと共演して12インチを出したほか、その12インチでも一緒にやっていたマルチ・プレイヤーのサイレントジェイの作品にも参加して、それがジャイルス・ピーターソンによるオーストラリアのアーティストを集めたコンピ『サニー・サイド・アップ』に収録されるなど、ほかでの活動もいろいろやっている。サイモンやポールにとって『コントロール』は、そうした課外活動の一環と言えるだろう。
ハイエイタス・カイヨーテのネイ・パームとナタリー・スレイドを比較すると、オペラ調のエキセントリックな歌も披露するネイに対して、ナタリーはよりストレートなソウル・シンガーとしての資質を持っていて、“ヒューミディティ”のようなしっとりと落ち着いた歌声が魅力となっている。サイモンのプロダクションはそうしたナタリーの歌の魅力を引き出すもので、様々な音楽性が結びついたハイエイタス・カイヨーテでのプロダクションのなかでもソウル寄りに振ったものとなっている。
とは言ってもいろいろなタイプのトラックが並び、ヴァリエーションの豊かさを感じさせる点はさすがだ。たとえばギミ・ヤ・ラヴ”はドラムンベース調のリズムで、“コントロール”はヴードゥー調のアフリカン・リズムにブロークンビーツを混ぜたようなもの。そして“クラウド・カヴァー”をはじめ、オーガニックなサウンドとエレクトリックなサウンドを巧みに融合したプロダクションが敷かれ、そのあたりはファティマやスティーヴ・スペイセックの作品にも共通する〈イーグロ〉のカラーと言える。“ラヴ・ライト”はポール・ベンダーの方がメイン・プロデューサーとなった楽曲で、ネオ・ソウルとジャズの結びつきはハイエイタス・カイヨーテの世界を受け継ぐもの。フォーキー・ソウルとでも言うべき“レター・トゥ・マイセルフ”は、アコースティックな質感の強いポールの演奏も聴きどころだ。
そして、やはりナタリーの歌声は非常に魅力的だ。“アイ・ウォント・クライ”はソウル・シンガーの歌い方に沿いつつ、ところどころでジャズ・シンガー的なスキャットも織り交ぜている。ジャズ・ファンクとソウルの中間的な“カラー”ではディープなフィーリングを見事に発散している。
一方、同じディープさに彩られた“ゼア・イズ・ライト・イン・エヴリシング”では、幻想的でスピリチュアルなムードを表現する歌声を聴かせる。この曲ではサイモンの演奏するピアノも楽曲の美しさにピッタリとマッチしている。アフター・アワーズ調の“サンデー・モーニング”は、往年のロイ・エアーズや彼が手掛けたランプを彷彿とさせるメロウ・ソウル。かつてロイ・エアーズが見出したシルヴィア・ストリップリンのような存在、そんな可能性を秘めたシンガーがナタリー・スレイドだ。
小川充