ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 見汐麻衣 - Turn Around | Mai Mishio
  2. 別冊ele-king 坂本慎太郎の世界
  3. aus - Eau | アウス
  4. Taylor Deupree & Zimoun - Wind Dynamic Organ, Deviations | テイラー・デュプリー&ジムーン
  5. Isao Tomita ──没後10年、冨田勲の幻のアルバム『SWITCHED ON HIT & ROCK』が初CD化
  6. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  7. P-VINE ──設立50周年記念、公式スタッフ・ジャンパーが発売
  8. Ikonika - SAD | アイコニカ
  9. Julianna Barwick & Mary Lattimore ──盟友2人による共作アルバム『Tragic Magic』の日本盤がリリース
  10. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  11. interview with Chip Wickham スピリチュアル・ジャズはこうして更新されていく | チップ・ウィッカム、インタヴュー
  12. interview with bar italia バー・イタリア、最新作の背景と来日公演への意気込みを語る
  13. interview with Young Marble Giants たった1枚の静かな傑作  | ヤング・マーブル・ジャイアンツ
  14. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  15. MURO ──〈ALFA〉音源を用いたコンピレーションが登場
  16. Eris Drew - DJ-Kicks | エリス・ドリュー
  17. ポピュラー文化がラディカルな思想と出会うとき──マーク・フィッシャーとイギリス現代思想入門
  18. heykazmaの融解日記 Vol.3:≋師走≋ 今年の振り返り WAIFUの凄さ~次回開催するパーティについて˖ˎˊ˗
  19. Masabumi Kikuchi ──ジャズ・ピアニスト、菊地雅章が残した幻のエレクトロニック・ミュージック『六大』がリイシュー
  20. Geese - Getting Killed | ギース

Home >  Reviews >  Album Reviews > Cuushe- WAKEN

Cuushe

ElectronicaPop

Cuushe

WAKEN

flau

デンシノオト   Nov 20,2020 UP

 京都から世界にむけてドリーミーなエレクトロニカ・ポップを発信してきたクーシェ(Mayuko Hitotsuyanagi)が、前作EP「Night Line」から5年の歳月を経て待望の新作アルバムをリリースした。アルバムとしては2013年の『Butterfly Case』より7年ぶりである。
 エレクトロニカ・リスナーにとっては、まさに待望のという言葉に相応しいアルバムだが、そんな聴き手の思い入れを吹き飛ばすほどに、とても強い意志が光のシャワーのように溢れていた。
 とはいっても過激な音楽というわけではない。2009年のファースト・アルバム『Red Rocket Telepathy』から続くエレガントでポップな音楽世界がアルバム全編にわたって展開されており、聴きはじめた瞬間にクーシェならではの透明な世界観に一気に引き込まれてしまうことに変わりはない。だから過去2枚のアルバムを長年愛聴してきた熱心なリスナーは安心してクーシェ的電子音楽世界に飛び込んでいってほしい。

 と同時に『WAKEN』には明らかに進化している面がある。変化ではなく進化だ(深化といってもいいかもしれない)。「WAKEN」というアルバム名どおり、朝の目覚めのような生命力に満ちたエレクトロニック・ミュージックとなっているのだ。
 まず、楽曲を包み込むサウンド・レイヤーの緻密さ、美しさが、これまでのアルバム以上に磨きがかかっている点だ。たとえば1曲め “Hold Half” を聴いてほしい。電子音、アナログ・シンセサイザー、ギター、彼女の声が折り重なりあい、大きなハーモニーを形成し、清冽な音響を展開していることがわかるはずである。
 続く2曲め “Magic” はややダークなムードのなか、少しずつ光が差し込んでいくような楽曲だ。無駄のないトラックの構成、和声感とメロディの絶妙さに聴き入ってしまう。ディレクター田島太雄、アニメーション・ディレクター久野遥子が手掛けたMVも楽曲の世界観を見事に映像化した傑作だ。

 加えてビート/リズムの深化にも注目したい。クラブ・ミュージックの音響と音圧を取り込んだ複雑かつ大胆なビートは、クーシェの歌と絡み合うことによって、彼女の音楽にかつてないほど疾走感を生み出すことに成功している。
 特にUKガラージ的なビートと、水墨画のような音世界のなかで、エモーショナルなヴォーカルを展開する “Emergence”、ドラムンベースを導入したミニマル・ポップな “Not to Blame”、重低音のキックに優雅なピアノを交錯する “Drip” などは、クーシェがこれまでと違うフェーズに突入したことを告げる楽曲たちである。
 そして最終曲 “Spread” では日本語の歌詞をはっきりとした声で歌唱する。ヴォイスのまわりに電子音のレイヤーが美麗に重なり、まるでエレクトロニカ・ウォール・オブ・サウンドのように壮大な音響を生成していく。アルバムの最後を飾るに相応しい曲であり、自分と心の中の宇宙とが交信していくような壮大で感動的な曲である。アルバムを聴き終えたとき、一作の物語を読み終えたような感慨に耽ってしまったほどだ。

 全曲、これまでのアルバム・楽曲以上に、メロディが明瞭になり、歌詞などの言葉と共に「伝えたい意志」がより明確になっていた。そしてベースとコードとビートの関係が密接になることでより疾走するようなエモーショナルな感覚が楽曲に生まれてもいた。
 かつて瀟洒なエレクトロニカ・ドリーム・ポップによって多くのリスナーを魅了したクーシェは、「夢」の世界から目覚めて、この不穏な「現実」を肯定し、2020年の世を力強く生きていく「意志」の音楽を作り上げた。
 その「肯定の意志」こそ、この現代おいて、とても大切な「希望」をわれわれに伝えてくれるものではないかと思う。多くの音楽ファンに届いてほしいアルバムである。

デンシノオト