ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Mark Pritchard トム・ヨークとの共作を完成させたマーク・プリチャードに話を聞く
  2. Sharp Pins - Radio DDR | シャープ・ピンズ、カイ・スレーター
  3. Big Hands - Thauma | ビッグ・ハンズ
  4. interview with aya 口のなかのミミズの意味 | 新作を発表したアヤに話を訊く
  5. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  6. 別冊ele-king 渡辺信一郎のめくるめく世界
  7. interview with IR::Indigenous Resistance 「ダブ」とは、タフなこの世界の美しきB面 | ウガンダのインディジェナス・レジスタンス(IR)、本邦初インタヴュー
  8. Khadija Al Hanafi - !OK! | ハディージャ・アル・ハナフィ
  9. Adrian Sherwood ──エイドリアン・シャーウッドがソロ名義では13年ぶりとなる新作を発表
  10. RIP
  11. Columns 4月のジャズ Jazz in April 2025
  12. Bon Iver - SABLE, fABLE | ボン・イヴェール、ジャスティン・ヴァーノン
  13. あたらしい散歩──専門家の目で東京を歩く
  14. くたばれインターネット
  15. 青葉市子 - Luminescent Creatures
  16. Stereolab ——日本でもっとも誤解され続けてきたインディ・ロック・バンド、ステレオラブが15年ぶりに復活
  17. 別冊ele-king VINYL GOES AROUND presents RECORD――レコード復権の時代に
  18. Columns Special Conversation 伊藤ガビン×タナカカツキ
  19. Jeff Parker, ETA IVtet ──ジェフ・パーカー率いるカルテットの新作がリリース
  20. Tirzah ──2023年の絶対に聴き逃せない1枚、ティルザのサード・アルバムが登場

Home >  Reviews >  Album Reviews > Jerome Thomas- That Secret Sauce

Jerome Thomas

Neo Soul

Jerome Thomas

That Secret Sauce

Rhythm Section International

小川充 Aug 30,2021 UP

 サウス・ロンドンのペッカムでブラッドリー・ゼロが主宰する〈リズム・セクション・インターナショナル〉は、アル・ドブソン・ジュニアのようなビートダウン~ビート・ミュージック系から、ヘンリー・ウー(カマール・ウィリアムス)、カオス・イン・ザ・CBD、ダン・カイ(ジョーダン・ラカイ)のようなジャジーなディープ・ハウス、MCピンティのようなヒップホップ~グライムとハウスやブロークンビーツ、ダブステップをクロスオーヴァーしたアーティストなどを幅広くリリースし、もちろんサウス・ロンドンのジャズ・シーンにもリンクするレーベルである。そして、オーストラリアのメルボルンの 30/70 やプリークエルなどもリリースし、ワールドワイドなネットワークも有している。そんな〈リズム・セクション・インターナショナル〉から新たに登場したジェローム・トーマスは、それまでのエレクトロニック・サウンド主体のレーベル・カラーとは少し異なるアーティストである。

 イースト・ロンドンのハックニー自治区にあるダルストン出身のジェローム・トーマスは、母親の影響でブランディのような1990年代のR&Bやソウルを聴きながら育ってきたという。シンガー・ソングライターでトラック制作もおこなう彼は、2016年に自主EPの「カンヴァセーションズ」でデビューする。メランコリックで夜の匂いに包まれたこのEPは、サウンド・プロダクションこそ現代的なものであるが、ディアンジェロの『ヴードゥー』のようなネオ・ソウルから、さらに遡れば1970年代のマーヴィン・ゲイの『アイ・ウォント・ユー』などの世界を彷彿とさせる作品集で、ソウル・シンガーとしてのジェローム・トーマスの才能や本質を見事に映し出していた。
 その後もウォーレン・エクセレンスやジョー・アーモン・ジョーンズと組んだ “ディドゥント・ノウ”、ブルー・ラブ・ビーツと組んだ “アイ・ドント・ニード” などのシングルやミニ・アルバムの『ムード・スウィングス』をリリースし、ウノ・ハイプやイメージゴッドらの楽曲にもフィーチャーされた後、このたび〈リズム・セクション・インターナショナル〉と契約してミニ・アルバムの『ザット・シークレット・ソース』を発表した。

 『ザット・シークレット・ソース』はジョー・アーモン・ジョーンズのグループで演奏するデヴィッド・ムラクポルらによるギター、ベース、キーボードの生演奏を入れ、オーガニックな質感を大切にしたサウンドへのアプローチがおこなわれている。『カンヴァセーションズ』などこれまでの作品に比べ、1970年代のニュー・ソウルをより意識したような作風と言える。アフロ的なモチーフを取り入れた “ザット” は、おそらくレーベル・オウナーのブラッドリー・ゼロ自らがパーカッションを演奏していると思われるが、ワウ・ギターのアクセントやジェロームのファルセット・ヴォーカルなどカーティス・メイフィールドの諸作を彷彿とさせる楽曲だ。“シークレット” の粘っこいヴォーカルはプリンスに近いものがあり、ファンキーさとメロウネスが絶妙に入り混じったサウンドである。“ソース” はヒップホップ的なプロダクションに70年代ニュー・ソウルのエッセンスをミックスさせ、アル・グリーンやマーヴィン・ゲイなど過去のレジェンドたちから2010年代のディアンジェロの『ブラック・メサイア』まで、ソウル・ミュージックの真髄を凝縮させたような楽曲となっている。
 トランペットをフィーチャーした “サンクス(ノー・サンクス)” はブルース色の強いレイドバックした楽曲で、ジェロームのヴォーカルもひと際気だるいものとなっている。“セトル・ダウン” や “ノー・B.S.” はエリカ・バドゥやジル・スコット路線のネオ・ソウル調のナンバーで、特に “ノー・B.S.” での囁きかけるようなセクシーなヴォーカルが絶品である。〈リズム・セクション・インターナショナル〉としては異色の作品となったが、UKから久しぶりに本格派ソウル・シンガーが登場したと言えるだろう。

小川充

RELATED

Prequel- Love Or (I Heard You Like Heartbreak) Rhythm Section International

Reviews