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The Ephemeron Loop

Hyperpsychedelic

The Ephemeron Loop

Psychonautic Escapism

Heat Crimes

Bandcamp

野田努   May 23,2022 UP
E王

 たまに何年かにいっぺん、サウンドの激烈さによるインパクトをもって衝撃を与える音楽作品がある。近年で言えば『リターナル』がそうだったろうし、古くはルイジ・ルッソロ(古すぎか)、たとえばヴェルヴェッツやジミ・ヘンドリックス、アシュ・ラ・テンペルのファースト、ボアダムス、オウテカ、あるいは『ラヴレス』とか……騒音芸術の系譜を引きながら超越的であろうとするこれら狂おしき連なりに、いまあらたにジ・エフェメロン・ループの『サイコノーティック・エスケイピズム』が加わった。痛ましくも烈しいこの音楽は、先週末ようやくbandcampでアルバム全体が聴けるようになったのだ。
 
 ジ・エフェメロン・ループは、出身はウェールズだが、現在はリーズを拠点とするアーティストで、最近はVymethoxy Redspiders(ヴァイメソキシー・レッドスパイダーズ——でいいのだろうか)なる名義で活動していたようだ。つまり、まったくの新顔ではない。Guttersnipe(ガッタースナイプ)なるノイズ・バンドのメンバーだったこともあって、その際の名義はUroceras Gigas(ユロセラス・ギガス——でいいのだろうか)という。とにかく日本人には読みづらいスペルの名義を多数持っていることが、discogsを見ているとわかる。そして彼女はトランス・ウーマンである。
 『クワイエタス』に掲載された彼女のインタヴューを読むと、彼女の音楽遍歴と並行して、アイデンティティの葛藤、ドラッグ体験の数々、LGBTコミュニティとアンダーグラウンドなレイヴ・カルチャーやなんかが赤裸々に語られている。誤解を避けるために言っておくと、彼女は一昔前のロック文化のようにドラッグをロマンティックに語っているわけではない。ただそれは、彼女にとっては触媒だった。「サイケデリック・ドラッグはトランス・ウーマンとしての自分を認識するうえで重要な役割を果たし、音楽に対する認識を完全に変えてくれた。3回目のトリップはまさに画期的な再生体験だった」と、ジ・エフェメロン・ループは話している。
 本作は2008年から作りはじめていたそうで、音楽的に言えば、彼女がこれまで心酔したあらゆる音楽——シューゲイザー、ブラック・メタル、ノイズ、ダーク・アンビエント、スラッシュ・メタル、グラインド・コア、ハード・テクノ、ダブ・テクノ、ドリーム・ポップ等々——が無秩序に取りまとめられている。アルバムはカミソリのようなノイズからはじまるが、途中でダブ・テクノに急転したり、コクトー・ツインズ流のエーテルがミックスされたりとか、節奏がないといえばない。荒削りだ。
 しかしながらこの音楽にぼくは、感情のレヴェルにおいても突き刺さるモノを感じるのだ。サウンドが伝える切実さにおいて、彼女が自分の人生をかけて、大げさに言えば命をかけてこの作品を作っていることがぼくには理解できる。小さな知識と小手先だけで作られた軽々しいエレクトロ・ポップな作品とは訳が違う。ギリギリのところから這い上がってきた音楽、いま我々にとっての避難場所があるとしたら、このぐらい過剰に内的で、刹那的でしかありえないと言わんばかりの。
 本人の解説によると「コクトー・ツインズ、アルカ、ベーシック・チャンネル、ナパーム・デスのあいだに位置する」とのことで、bandcampの解説をそのまま引用すると、「リーズのクィア・アンダーグラウンドでシューゲイザー、レイヴ、サイケデリック・ドラッグに傾倒した彼女の悲惨な人生を打破するため、ミスVRはこのアルバムを書くのに14年もの長い年月と困難を要した。ネガティヴな感情に苛まれ、エクストリーム・ミュージックをサウンドトラックとした生活は、陶酔、高揚、そして恍惚とした自由を体験する機会に取って代わられ、その感情は 『サイコノーティック・エスケイピズム』で官能的に凝集されている」。
 
 ホログラフィックなヴィジュアルを装いながら、完璧なアンダーグラウンドからやってきたこの音楽を、ぼくが10年後に聴いているかどうかはわからない。しかし、たった“いま”、このときにおけるインパクトにはすごいものがあるし、それで良いと。いまにも倒れそうだというのに、その先のことまで考えられないだろ。

 

野田努

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