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Gooooose

AmbientDrum 'n' BassTechno

Gooooose

Rudiments

SVBKVLT

三田格 Aug 02,2023 UP

 昨年の中国は長引くロック・ダウンと、これに反発した市民たちが大規模なデモをやめなかったことは日本のニュースでも報道された通り。とくにティック・トックに流れてきた映像は暴力的な場面が多くて驚かされた(デモ参加者の多くは後に逮捕され、投獄を覚悟した少女の予告映像がネット上に出回るなど余波はけっこう長引いた)。そんな時に上海で自宅にこもり、身の回りのものを詳細に観察し、最終的にはそれらを使ってサウンドを組み立てたというジャングリストによる4作目。鉛筆や靴下、ビスケットの包装紙や肉野菜などが持つカタチに強く惹かれ、あるいはそれらの由来をサウンドに反映させたという。『Rusted Silicon』(『テクノ・ディフィニティヴ』P245)から4年ぶりとはいえ、この間にDjスコッチ・エッグとの『JAC』(20)やウィアードコアの展示「オリエント・フラックス」のために33emybwとつくった『Trans-Aeon Express』(22)といったジョイント作も続いたので、グーーーーースことハン・ハンの勢いはむしろ増してきたと考えたほうがいい。荒削りでシャープだった前作と較べて、ラスティ並みにゴージャスで無駄にスケール感を増大させたサウンドが次から次へと続き、かつてなく多様なアプローチはかなり楽しめる。以前よりもソフィスティケイテッドされているのにアルバム・タイトルの『Rudiments』はなぜか「基礎」とか「初歩」の意。いまは亡き下北沢ゼロでなにげなく買ったカセット・テープがきっかけで聴き始めた上海の〈SVBKVLT〉もこれで59作目を数え、ハウイー・リー、Prettybwoy、Rilla、パラアディソ(Tsvi+セヴン・オービッツ)、スリックバック……とラインアップもけっこう派手になってきた。ビョーク『Fossora』にフィーチャーされたガバ・モーダス・オペランディも〈SVBKVLT〉がインドネシアで発掘した逸材。

 『Rudiments』は以前と比べて全体に混沌としたイメージをうまくコントロールしている。前傾と後景がくっきりと分かれ、奥行きのあるサウンドは開放感を増し、これがポスト・ロックのダック・ファイト・グースをやっていた時代から引きずっていたハードコア的な感性との決別にもつながっている。ポスト・ロックの名残を感じるものとしてはゴキブリを題材にした “Turn A Roach To A Cleaning Bot” があり、小刻みなスウィング・ドラムにサビで集中的にシンセサイザーを被せる “Chips”(この曲は低音が出るスピーカーで聴いて!) など以前は考えられなかったようなファニーな曲も増えている。長引くロック・ダウンが人に与える影響は本当に様々だなあと思うばかりだけれど、中国ではコロナの影響で若者の失業率が26%台と発表され、これが実際には46%以上という声もあり、親から給料をもらって家事を手伝う「専業子ども」が増えているというから、そうした層にはベッドルーム・テクノによって世界と繋がれることは価値が増しているに違いない。オープニングの “Burning Smartphones At A Sunset Desert(夕陽の砂漠で燃えているスマホ!)” はどこか達観した響きのあるアンビエントで、同じくメローな感性を押し出した “Boids” (の後半)も複数の波がぶつかり合うような構成でなんとなく時間の感覚を麻痺させる。コロナ前に70年代の繰り返しばかりだとシーンを批判していたわりに “Boids” は70年代を巧みに取り入れた面があり、あの発言は同族嫌悪だったのかなと思ったり。

 エイフェックス・ツインの新作でも “Parallax Mix”と称してドラムファンクが取り入れられていたけれど、『Rudiments』でも “Sandbox” や “Don’t Think”ではスクエアプッシャーを思わせるドラムファンクが暴れまわり、手数の多いドラムの楽しさを堪能させてくれる。個人的には途切れがちなドラムファンクに断片的なメロディを切り貼りしたような “Gin & Broccoli” がベスト。このところ相次いでリリースされたメサクとブラワンとエイフェックス・ツインのシングルがどれも似た感じで、続けて聴いているとポリゴン・ウインドウの新作でも聴いている気分になっていた(上にラザロやバッテクノ&トリスのアルバムも同じ方向を向いていた)ため、『Rudiments』は少しばかり変化球を試してみたという感じに聞こえてくる。また、最後のところでどうしても行儀良くできない展開が期せずして楽観主義を呼び込んでしまうという雰囲気もぜんぜん悪くない。

三田格