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漢 a.k.a. GAMI (企画/構成・二木信)

漢 a.k.a. GAMI (企画/構成・二木信)

ヒップホップ・ドリーム

河出書房新社

Amazon

野田努   Jul 16,2015 UP
E王

検索出来ても経験不足
知ったかぶってる偽物ばっかだ
漢 a.k.a. GAMI “oh my way”

 アウトサイダーではない。これはアウトローの物語である。
 2003年、MSCの『MATADOR』を初めて聴いたときは、とんでもない人たちが出てきたと驚いたものだったけれど、本書『ヒップホップ・ドリーム』でぼくはようやくその背景の詳細を知ることができた。そうか、こういうことだったのか……MC漢の生き様そのものが音楽に直結している。直結していなければ、それは“リアル”じゃない。
 漢の自叙伝『ヒップホップ・ドリーム』をぼくは先週末、布団のなかで読みはじめて、そのまま最後まで読み切ってしまった。本書の企画/構成者である二木信のバカヤローに「素晴らしかった」というメールも送った。この手の実話ものはたいていそれなりに面白いものだが、本書に関しては構成力も素晴らしかった。
 
 1978年新潟で生まれ、東京は新宿で育った漢は、なかば崩壊する彼の家庭環境、不良グループの実態、ローカル都市としての新宿、MSC結成、ストリート・ビジネス、アジトでの共同生活、そしてLIBRAとの決裂と鎖GROUPの立ち上げまでの歴史を魅力的な語り口で紡いでいく。それら物語からは、彼のヒップホップ観やストリート・ワイズ、もしくは反骨心やハングリー精神が立ち上がってくる。
 ストリート目線の、街で学んだ言葉(隠語)で綴られる『ヒップホップ・ドリーム』は、まずはその言葉遣いそのものに異様なグルーヴがある。ヤンキー文化にコンプレックスを抱く知識人が書いたものとはわけが違うってことだ。そしてサーヴィス精神旺盛な漢は、彼のサグなエピソードを惜しみなく語ってくれる。ユーモアはあるが情緒の入り込む余地はない。時系列に従って淡々と、恐怖と魅惑の物語を書けるギリギリのところで書いている。誇るべき栄光の歴史というよりも、いわば反社会のオンパレードで、読んでいるだけでもぞっとする箇所がいくつもある。内臓の底から凍えるようなエグい逸話も少なくない。思わず本を破り捨てたくなるようなヴァイオレンスもある。しかし、それが“リアル”であるならば、漢は書かなければならない。“リアル”を表すことこそ彼のラップ哲学なのだから。
 
 これはMSC誕生秘話であると同時に日本語ラップ史のひとつの季節、ひいては日本の音楽史90年代から00年代にかけてのアンダーグラウンド文化の生々しい回想録だ。90年代のストリートではいったい何が起きていたのかという証言──まあ、たしかに若者文化において観葉植物が瞬く間に広まった時代でもあったし、ぼくの身近なところでも、小中でSDP、そして「証言」で人生を変えられて、ECD、ギドラ、シャカゾンビ、ブッダ、ケムリなどなど……といった一連の流れ(並行して、レゲエもあったことを忘れてはならない)にどっぷり浸かっていた輩が何人もいる。NASの川崎チッタのライヴに出かけ(ぼくの世代はPEだった)、思春期に日本語ラップ黄金期を思い切り浴びたその世代(昭和50年~50年代なかば生まれぐらい)が街に繰り出しはじめたとき、日本における不良は更新されたのかもしれない、と思う。
 『ヒップホップ・ドリーム』には、そのあたりの“リアル”の断片も散らかっている。つまり、描かれているのはメタファーとしての毒でなく本物の毒、そして集団暴行、落ちるところまで落ちること、すなわち犯罪についても、だ。業界主導ではじまった日本のヒップホップはこうしてストリート主導の文化へと変わっていったと言えば聞こえはいいかもしれないけれど、“リアル”とはそうスマートなものではない、ということもよくわかる。
 が、それ以上に本書が訴えることは、このドラマの向こう側からは、誤解を恐れずに言えば、そう、カウンター・カルチャーの可能性を感じるということではないだろうか。彼はいっさいそんな風なことを語っていないけれど、どうにも漢は反逆者だ。そもそもこの本には、保守的な日本がもっとも嫌悪するものごとで満ち溢れている。そして、たとえ危険な匂いを漂わせようとも、どこまでも反権威的で、力に屈することのないインディペンデントな人物たる漢は、ある意味憧れであり、本人がいくら否定しようとも人の内なる欲望の代弁者であり、そして大胆不敵な(アンチ)ヒーローなのだ。
 彼はストリートから来ているが、ストリート至上主義者ではない。が、しかし、どんなに血も涙もない場所であっても、そこが創造力の源になっていることが本書を読んでようくわかった。これだけの経験をして、そして大人になった漢がこれからどんな“リアル”をラップするのか、本書を読み終えたぼくにはこの先が楽しみでならない。果たしてどこに“リアル”を見出すのだろうか。

野田努