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Secondhand Sureshots

Secondhand Sureshots

音楽/ドキュメンタリー アメリカ 30分(ボーナス映像約140分)

Stones Throw / Disques Cordo

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渡辺健吾   Apr 28,2010 UP

 すっかり紹介が遅れてしまったが......これは、かなり素晴らしい映像作品だ。いや、アート・プロジェクトと呼ぶべきか。LAシーンにも登場する4人のビートメイカー(デイデラス、ノーバディ、J・ロック、ラス・G)にもまったく馴染みがなかったとしても、DJミュージックやヴァイナルへの愛をいちどでも熱く感じたことのあるひとなら絶対に画面に引き込まれてしまうはず。デジタル爛熟期になって、著作権のあり方や作品の提示の仕方がますます問われる/議論されるようになった現在だからこそ、改めて意味を持ち注目されうる、あからさまに「他人のレコードから新しい音楽を創造する」この試みは、原始的で、だからこそ力強い。

 作品のテーマは簡潔だ。5ドルを渡された4人のクリエイターたちは、地元ロサンジェルスのThrift Store(日本で言うところのリサイクルショップ、古道具屋)へ散り、あれこれ冗談を飛ばしたりレコード・ディグの蘊蓄を語ったりしながらネタになる盤を探していく。そう、5ドルで買える5枚のクズ扱い盤を試聴もせずに直感だけで集め、そこからサンプルした音だけを使って新たな曲を作ったらどうなるか―この、こどもじみたしかし実に興味深い試みをヴィデオカメラでずっと追いかけたのが本作なのである。冒頭、デイデラスが明かしてしまうが、撮影隊もフロスティとブライアン(ネットラジオDUBLAB主宰者でこのフィルムの制作者)のふたり、カメラが1台だけ。しかし、その極限のシンプル映像を編集の妙と時折挿入されるモーショングラフィックによる演出、そしてなにより抜群のセンスで鳴らされる音楽でクールな短篇に仕上げている。

 このドキュメンタリーにはいくつかのレイヤーがあって、そのひとつがリアルなアメリカのトラッシーな生活感をむき出しにしている。これが非常に効果的に観客をさえない店のレコード棚の横や、ホームスタジオへと没入させてくれる。マニアが遠方から足を運ぶような店や、そうでなくてもしっかりした中古盤屋はいくらでもありそうなのに、あえてレコード屋ではなくダメなひとたちががらくたを売ったり買ったりするダメな店でスタートするのが最高なのだ。カセットテープやレーザーディスクがどうでもいい服や食器なんかと一緒に並べられているのはまさに文化の墓場の様相なのだが、逆に、そんな商売がいまだに成立しているということじたいが驚きだし、出演者たちも結構そんな場所に愛着をもっているようだ。そして、4人のクリエイターのホームスタジオがこれまた手作り感たっぷりのさえない部屋ばかり。スタジオというより屋根裏部屋と言われたほうがピンと来そうな雑然としたカオスを思わす空間の背景には、やはり大量のレコードがちらちらと見えて、彼らがいかにレコードを愛し、あまりに音楽にのめり込んだ結果いつのまにか自分でも音楽を作るようになっていたというのが透けてくる。四六時中ジョイントふかしてるやつもいるし、まるで「あいつすげーレコードたくさん持ってンだぜ!」って噂の友達の秘密基地に初めてお邪魔したような、そんな錯覚すらおぼえるのだ。コロンバイン高校の銃撃事件をモチーフにしたガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』が犯人側の少年たちのやはり結構トラッシーな日常生活を延々と描写して、通販でライフルを入手して乱射に至るリアリティを増強していたが、本作のキモも、このリアルな環境にあると言える。

 次に、「サンプリングによる音楽制作のネタ選びからスタジオ内での試行錯誤、そして完成品を持ちよったアーティスト同士による品評会」という普段は公開されることもないし、言語化されることもない過程がしっかりと作品の核に据えられている。How Toのビデオではないから細かく画面を見せつつどうやって曲が構成されていったかは追いかけないが、へたをするとただの退屈な教則ビデオになりかねない箇所を飽きずに見させるのはたいしたものだ。寡黙な男たちがただレコードを再生してなんだかわからない作業をちまちまやってるというのではなく、まず彼らも音を知らないところでいろいろと「想像」や「ネタ選びの極意」みたいなものを語らせて、どんな音が盤から鳴ってくるのか、どんな箇所をピックアップすべきで、それをどう加工したらかっこよくなるのかを視聴者も一緒に考えられるようになっている。

 そして優れた映画のような、成功するかどうかハラハラドキドキのクライマックスというものが用意されているのも素晴らしい。実際、スタッフも「本当にたった5枚のレコード、しかも仕込みもないまったく聞いたこともない盤からのネタだけで、ちゃんと曲ができるの?」というのは半信半疑だったそうだが、想像以上の曲が仕上がっているのだ。その、大団円とも言える4つの曲はフィルム上では断片的にしか聞かせず、きちんとCDとして収録されている。これはぜひ、自身の耳でたしかめてください。

 実際のところ、このフィルムが投げかけるのは、ただ音楽の悦び、何かを生みだす楽しみという部分だけじゃなくて、出自からDJミュージックが抱える「他人の音楽、既存の音楽をリサイクルして、初めて生まれるもの」という宿命だと思う。著作権的にどういう処理になってるのかどきどきしながら見たが、いきなりアーティスト名もタイトルもジャケも晒して、そこからネタを探して最終的に商品に仕立てあげるドキュメントは、いじわるな言い方をすればターゲットの選定から盗みの手口さらにはそれをどこかに転売するまで明かしたビデオを泥棒が作ってるようなものと言われる危険性もあり、しかしそれを敢えてやった彼らのスタンスには本当にリスペクトさせられる。誰にも見向きもされない1ドルレコの中から大量に発掘されるバーバラ・ストライザンドが、このフィルムのおかげでちょっと掘られたりしたらおもしろい。

 さらに付け加えるなら、メンバーがライヴ・ショーで実際に客の持ってきたレコードで即興の曲作りをしたり、500枚限定で売られたBOXセット(アナログ盤+DVD+スリップマット)はなんとThrift Storeで買い集めた中古レコのジャケに改造を施した手作りアートだったり、かつてこの音楽が持っていたような夢のある広がりをしていてとても興味深い。アートと呼ぶことで、この行為が不法呼ばわりされるのではなく説得力を持つのなら、喜んでアートと言おう。あー、そういえばDJ TASAKAが昔CSの番組でやってた「レコード供養」もそうとうすばらしい企画だったけどね。うん。

渡辺健吾