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The Stone Roses : Made of Stone

The Stone Roses : Made of Stone

監督/Shane Meadows

文:ブレイディみかこ Jun 11,2013 UP

 シェーン・メドウズとストーン・ローゼズの両者に並々ならぬ愛情を抱く人間としては、ひとり静かに見たい映像だった。が、スキンヘッドの恰幅の良いおっさん3人組がビールを片手に隣に座って来やがったときにはわが身の不運(いつものことだが)を呪った。上映5分前。場内を見渡してみる。おアート系映画専門映画館の客層は、明らかに通常とは違っている。
 まず、当然ながら年齢層が高い。目つきの悪い中年スキンヘッズや、クリエイター系のお仕事についておられそうな品の良いおっさんたち。若い頃はインディー好きだったのよー、みたいなミドルクラスのカップル。といった年寄りに混じって、バンドマン風の青年や、音楽オタク風のティーンがひとりで来ている。という感じ。
 隣のガラの悪そうなおっさんたちが、上映前からがんがんビールを飲んでいるので、演奏シーンでラウドに歌い出したりしたら嫌だなあ。と不安に思った。が、いったん上映がはじまると、隣人たちは妙に静かになった。肘掛けから腕がはみ出すほどふんぞり返ってこちらに迷惑をかける、というようなこともない。大の男が、体を縮めて、直立不動で映画を見ているのだ。どうしたのだろう。と脇を見てみると、隣のおっさんは、冒頭から眼鏡の下に指を入れて涙を拭いていた。

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 これはシェーン・メドウズにしか撮れなかった。と思うのは、ウォリントン・パー・ホールに集まるファンたちのシーンだ。バンドのメンバーや著名な関係者ではなく、無名のファンの映像をこれほど長時間見せるロック・バンドのドキュメンタリーは前代未聞だろう。
 バンド側が当日午後にいきなり発表した「ストーン・ローゼズが今日16年ぶりのギグを行う。ホール前に集まれ。チケットは早い者勝ち」という告知を受け、ファンが続々と集まってくる様子をメドウズは丁寧に追う。ネクタイを締めたまま血相を変えて走って来るオフィス・ワーカー。学校に子供を迎えに行ってその足で来たのだろう、制服姿の娘を引き連れたおやじ。汚れた格好で駈けてくる塗装業者。スーパーの買い物袋を下げて子連れで走ってくるお母さん。
 「上司に『姑が心臓発作で倒れた』と言って早退してきた」、「ベビーシッターの手配とか、一瞬そういう考えが全部ぶち飛んだ」と、口々に庶民たちは語る。メドウズの映画に出て来そうな人々が大勢いる。世間的にはルーザーと呼ばれる、ヤバめの男女。社会的にサクセスしているらしい自信に溢れた人。不満を抱えながら底辺で働く労働者。ひとりひとりの顔や身なりや言葉から、彼らの人生が透けて見える。このウォリントンのシーンは、ここだけで一本の映画を見たようだ。伝説のバンドの再結成というのはよくある話だが、そのときのファンの心情を描いた映画はいまだかつて無かった。シェーン・メドウズは、それを撮ったのだ。タイトルを付けるなら『This Is England 2012』。ストーン・ローゼズのメンバーたちも、このウォリントンのシーンがいちばん気に入ってるという。

             *************

 ツアーのリハーサルのシーンでは、カメラは各メンバーの顔だけを追う。リズム隊のマニとレニが顔を見合わせて笑う。イアンとレニがコーラスしながら頬を緩ませる。クールに職人然としてギターを弾いていたジョン・スクワイアが、曲の最後ににっこりと微笑む。
 20年近く前に派手に喧嘩別れした男たちが、再び笑い合っている。その絵が呼び起こすセンチメントは、セックス・ピストルズの再結成でメンバーたちが揃ってステージに立っている姿を見た時の感傷にも似ていた。隣のおっさん、いよいよ泣いてるんじゃないか。と思ってちらりと脇を見、わたしは度胆を抜かれた。
 スキンヘッドの大男が、にやにや笑っていたからである。いい大人が、何を嬉しそうに、だらしなくにやにやしているのだろうか。
 しかし、そのようなフィールグッドな映像もそう長くは続かない。彼らはストーン・ローゼズだからだ。アムステルダム公演で、アンコールを前にレニが先に帰ってしまい、「あのドラマーはCUNTだ」とステージで言い放つイアン。
 そこでメドウズはいっさいの撮影を止める。並みの映画監督なら、もっとも撮りたいところだろう。バンド内紛の内幕はドキュメンタリーの見せ場になるからだ。しかし、メドウズはそれを撮らない。『This Is England 2012』にはそんなシーンは要らないと彼は決めたのだ。
 「俺は撮影を停止して、イングランドに戻る」とメドウズは宣言する。そして暗転。
 隣の席のおっさんが、ごくり。とビールを飲む音がした。

            *************

 場面は唐突にマンチェスターのヒートン・パークの凱旋コンサートに切り変わる。
 最後のシーンは、"Fools Gold"の演奏を最初から最後まで撮っただけの、シンプルな映像だ。ここまでは友人としての親密な視線(実際、メドウズはかなり前からメンバーと交友があり、イアンは『This Is England 86』にカメオ出演もしている)で撮ってきたメドウズが、最後には"人生を変えられたバンド"を見ているファンの目線に戻る。
 それは圧巻の演奏映像だった。
 勇姿。としか言いようのないストーン・ローゼズの姿。
 メンバーたちはもはや笑っていない。再結成は単なる同窓会ではなかったのだ。各人がそれにはっきりと気づき始めた顔をしている。
 「ヒートン・パークの"Fools Gold"は、インディーズがダンスに移行するエピックな瞬間だった」
 と、メドウズはインタヴューで語っていた。が、それに付け加えるなら、驚くほどどっしりと骨太になったローゼズの、はっとするような新鮮なグルーヴがあの演奏にはあった。
 メドウズは彼らの新曲を聴いたことはないと言っているが、本当にそうだろうか。と思う。彼には、登場人物たちの未来に繋がるヒントを残して映画を閉じる癖があるからだ。

             ************

 館内が明るくなり、隣のおっさんたちが立ち上がった。もう泣いてもいなければ、にやにやしてもいない。新譜はいつだ。と言わんばかりの切羽詰った表情で誰もが出口へ向かっている。
 いい大人が七面相みたいに、まったくバカなのかと思う。
 だが、そんな気持ちにさせられるバンドのひとつやふたつ持ってない音楽ファンを、というか人間を、わたしは信じない。


文:ブレイディみかこ