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ロックステディがいつ聴いても良いのは、ある社会に生きる人びと(あくまで複数形)の高揚する気持ちが音楽に与える影響の大きさゆえだろう。1966年から1968年という本当にわずかな期間、ジャマイカの人びとが明るい夢を見れた時代、いまだに蒐集家たちを夢中にさせるロックステディのレコードが大量に作られ、売られている。
2005年、UKのレゲエ・リイシュー・レーベル〈プレッシャー・サウンズ〉は、『セイフ・トラヴェル』というタイトルで、良く出回っている有名なコンピレーション盤ではまず聴けない、レア音源の編集盤をリリースした。その多くは、プロデューサーのフィル・プラットがトミー・マクック(sax)やリン・テイト(g)という、ロックステディ時代の名手たちを率いて録音したものだった。『リッスン・トゥ・ザ・ミュージック』は、『セイフ・トラヴェル』に次ぐ、〈プレッシャー・サウンズ〉によるロックステディのレア音源集だ。
『リッスン・トゥ・ザ・ミュージック』は、よほど詳しい人でなければ知らないと思われるケン・ラックという数年だけ音楽業界に携わった経営者にスポットを当てている。ソースとなっているのは、ケン・ラックが60年代後半のわずか数年のあいだ営んでいた〈カルトーン〉、〈ショック〉、〈ジョントム〉といったレーベルからリリースされたEPである。
スカタライツのマネジャーを経験したケン・ラックには人脈があった。ライナーノーツによれば、最初はトミー・マクックとジョニー・ムーア(trum)の録音のためにレーベルをはじめたというが、実際、多くの作品はマクックとムーア、リン・テイトから提供されている。金物屋といっしょにレーベル経営をしていたというが、わずかな予算内で少数ながら有能な音楽家を雇うことができたのだろう。バニー・リーとフィル・プラットのもとで彼が手がけた音楽は、いまではヴィンテージならではの美しい輝きを発している。
1曲目の、ピーター・オースティン&ザ・クラレンドニアンズ(スタジオ・ワンの作品で知られる)・ウィズ・ジ・アーニー・ラングリン・オールスターズによる"アイム・ソーリー"は、蜜のように甘い典型的なロックステディ・ソングで、このメンバーによる曲はさらに2曲収録されている。ほかに、有名どころではトミー・マクック&ザ・スーパーソニックやジ・ユニークス、リン・テイトのバンドの音源が数曲収録されている。心配無用の、全21曲のジャマイカ音楽のエレガントで美しい瞬間が詰まっている。
今日は、本サイトで何度か書いているように、ことUKのキッズはR&Bに夢中だ。同じように、この時代のジャマイカ音楽には、同時代のR&B、とくにサム・クックに代表されるソウルと呼ばれたアメリカの黒人音楽からの影響が刻まれている。ロックステディの時代は1968年までなので、1969年ともなるとアーリー・レゲエの時代へと移行するわけだが、『リッスン・トゥ・ザ・ミュージック』は晩年のロックステディ色が強いように感じられる。オフビートのあいだの空間がほんのちょっとだけ開きはじめているが、しかし、まだ時代はまったりしている。
〈プレッシャー・サウンズ〉はいったいどこからこんな古いモノを集めてくるのだろう。しかもそれらは間違いなく、良いのだ。
野田 努