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Peng and Andy Compton

Peng and Andy Compton

ブリストル発UKディープ・ハウスの精神

野田努   Mar 22,2016 UP

 キミが家で打ち込みの音楽を作っているなら、ハウス・ミュージックは聴いておいたほうがいいと思う(もちろんクラブでも聴いたほうがいい)。なぜなら、ハウスをある程度わかっているだけで、キミの音楽がより多くの人に聴かれる可能性はいっきに高まるんだから。ことネット時代の今日においては。
 シンプルでありながら、ハウスのビートの上にはいろいろなものを載せることができる。ハウスほど雑食的に多くを受け入れるビートはほかにはない。ソウルやジャズ、エレクトロニックな響き、実験的な音響、クラシカルな旋律、オールド・ロック,すべての歌モノ、そしてダブ、アフロ、アラブ、ラテン……この音楽が何かを拒むことはないように思えるし、本当にあらゆる音楽はハウスの上でミックスされる。
 ここで用語解説。ディープ・ハウスとは、90年代半ば以降に意識して使われはじめたタームで、別に深さを競って生まれたわけではない。当時は、いまでは信じられないくらいにハウスはメジャーな(コマーシャルな)音楽で、数多くのスターDJが生まれ、いまで言うEDM状態だった。シカゴやデトロイトやNYやニュージャージーのアンダーグラウンドは切り捨てられ、テンポもアッパーになり、若い白人向けの音楽になった。ディープ・ハウスはそうした状況へのカウンターとして、主にUK中北部で広がった。当時ぼくもこのシーンを追いかけ、力を入れてレポートしたので、個人的にも思い入れもある。サブカル的に受けているのではなく、そのへんで働いている普通の姉さんや兄さんが週末ハウスのパーティに出かける。無駄に着飾らず、ロンドンよりも自分たちのほうが正しい音楽を好んでいるんだという自負も彼らにはあった(数年後にダフト・パンクがフックアップするロマンソニーのような連中もグラスゴー~ノッティンガムあたりでは人気だったし、ピッチをなるべくマイナスにしてミックスするという技法も彼らは早くから好んでいた)。
 UK最良のディープ・ハウスの多くにはソウルやジャズの成分が含まれている。それはノーザン・ソウルの伝統だという分析は当時もあった。ブリストルを拠点にする〈Peng〉とアンディ・コンプトンは、UKディープ・ハウスの精神とスタイルを継承している。1999年にはじまったこのレーベルは、伝統を守りながら、デジタル環境もポジティヴに受け入れて、毎年コンスタントなリリースを続けている。ちなみにアンディ・コンプトンはThe Rurals名義では、すでに10枚以上のアルバムを発表しているほどの多作家。
 インターネット時代は、地球の距離が縮まったというけれど、実際ele-kingは海外からのアクセスも少なくない。先日掲載したブリストル・ハウスの記事を見て、アンディ・コンプトン本人から編集部にメールが来た。ブリストルには俺もいるぜということなのだろう。良いレーベルだし、ちょうど良い機会なのでメール取材した。彼は南アフリカのシーンとも強い繋がりがあり、そのあたりの面白い話も聞けた。
 記事の最後には、アンディ・コンプトンに選んでもらったUKディープ・ハウスの名曲も紹介している。これを機会に、UKディープ・ハウス、そして〈Peng〉とアンディ・コンプトンの音楽の温かい魅力に触れて欲しい。



あなたはどのようにしてブリストル・ハウスの記事を知ったんですか?

A:Facebookで知ったんだよ。良いプロデューサー、アーティストが日本でも気に入られているのを知って嬉しかったよ。

ぼくはUKディープ・ハウス・シーンのラフでパワフルな感じが本当に好きなんですけど、あなたの名前を初めて見たのは、1997年のDiY(※)のコンピレーション『DiY: Serve Chilled Volume 1』でした。

A:俺は、1992年/1993年とノッティンガムに住んでいたんだ。それまでは南西部で暮らしながらロック・バンドをやっていたんだけど(ギター担当)、ナイトクラブに行きはじめてからエレクトロニック・ミュージックとディープ・ハウスに恋してしまったんだ!
 幸運だったのは、俺が住んだノッティンガムにはDiYがいたってこと。なにぜ俺は彼らのイベントに行くようになって、最良のディープ・スピリチュアル・ハウスを聴いたんだからね! 俺はそれからデヴォンに戻って、友だちのピート・モリスといっしょにハウス・ミュージックを作るようになった。そしてデモをDiYに送ったんだ。1997年に彼らのレーベル〈DiY Discs〉からリリースされた「Groove Orchard EP」がそれだよ。

1997年ぐらいにぼくがイングランド中部で経験したディープ・ハウスのシーンは、ロンドンのともすればファッショナブルなそれと違って、ごくごく普通の労働者たちが踊っていることに衝撃を受けたものでしたが、この20年のあいだでディープ・ハウス・シーンはどのように発展したのでしょうか?

A:昔のシーンは大きかったよな。エクスタシー文化によって、誰もが愛と良いヴァイ部ブの素晴らしい週末を望んでいたからね。今日の事情はあの頃とは少々違っている。ディープ・ハウスは玄人の音楽、通の音楽になっているんだ。それに、現代の多くの労働者階級が好むのは、おおよそコマーシャルな音楽なんだよ。

あなたはなぜブリストルに越したんですか?

A:ブリストルに来たのは3年前。それまではデヴォンに住んでいた。デヴォンは美しいところだった。The Rurals(彼のプロジェクト)はそこで生まれたからね! とはいえ、音楽シーンはとても静かなんだ。だから俺はブリストルに引っ越すことにした。ブリストルのシーンは驚異的で、多くの偉大なミュージシャンがジャムしたがっているし、音楽を作っているんだ。

あなた自身のレーベル、〈Peng〉はどのように生まれたのですか?

A:90年代後半、俺はThe Ruralsとして多くのレーベルと仕事をしてきたんだけど、自分たちのジャジーでソウルフルな音楽のためにレーベルをはじめようと思った。〈Peng〉といえば高品質だって、みんなもうわかっているよ!

あなたはいまでは南アフリカとの繋がりも深く、南アフリカの人たちといっしょにプロジェクトもやっていますよね。

A:2000年、〈House Afrika〉という南アフリカのレーベルがコンピレーションのためにうちらの曲をライセンスしたいと言ってきたんだけど、そのコンピが10万枚売れているんだよ! それで俺は、南アフリカにはでっかいハウス・ミュージックのシーンがあることを知ったんだ。それからも〈House Afrika〉に〈Peng〉の楽曲や俺の曲をライセンスしていたんだけど、2011年、思い切って南アフリカをツアーしてみることしたんだ。自分で日程を調整ながらね。素晴らしい体験だったよ。俺は主に白人が住んでいないエリアでまわすんだけど、彼らは本当にハウス・ミュージックを愛している。ハウスは彼ら(南アフリカ)の文化の一部なんだ!! ちなみに来月は、俺の18回目の南アフリカ・ツアーだよ! 
 南アフリカでは、ハウスはもっとも人気のあるジャンルで、ラジオもTVもすべてハウス・ミュージックを流している。俺のグループ、Ruralsだってあそこじゃ有名なんだ。南アフリカこそハウス・ネーションだ!
 2014年、俺はソウェト(ヨハネスブルグのエリア名)でAndy Compton's Sowetan Onestepsというグループを結成したんだよ。来たる4月にその最初のアルバムが出る。それが俺にとっての30枚目のアルバムになるんだけどな!





Andy Compton’s Sowetan Onesteps
Sowetan Onesteps

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ダンス・ミュージックは細部化されて、シーンにはトレンドがあります。しかし、ディープ・ハウスはそうしたトレンディなシーンとは距離を置いているように思いますが、いかがでしょう?

A:ハウス・ミュージックは本当に重要なジャンルで、あらゆる多くの他のジャンルのなかで大規模に進化している。いまUKでディープ・ハウスと呼ばれているものは90年代にそう呼んでいたものとは別モノだな。現代のそれはテック・ハウスよりだし、チャートを意識したり、まったくトレンディな音楽だよ! とはいえ良いこともある。この時代、一部の人たちはより深く掘って、ハウスのルーツを見つけているんだ!

UKのオリジナル世代はいまどうしているんですか?

A:ほとんどの90年代世代のレイヴァーはいまは落ち着いて、もう家族があって、それほど出かけていないね!

若い世代がいまディープ・ハウス・シーンに入って来ているって本当ですか?

A:その通り! ブリストルのディープ・ハウス・シーンでは、1000人の若者に会うことは珍しくない。ここブリストルにはアンダーグラウンド・ミュージックを扱っている小さなクラブとともに素晴らしい繁栄がある。キミも知っているように、ブリストルからはどんどんすごいプロデューサーが出てきている。

〈Peng〉はこの15年、コンスタントに作品をリリースしていますが、それはどうしてでしょう?

A:俺たちはこの時代、130枚のEP、35枚のアルバムを(フィジカルあるいはデジタルで)発表している。俺が焦点を当てているのはサウンドが新鮮であること、そのことにエネルギーを注いでいる。デジタルの時代においては、実験はやりやすくなっている。フィジカルと違って、かかる諸経費はないからな。デジタルではより安価にリースできるんだ!

あなたの将来の計画は?

A:音楽を作り続けること! 俺は30枚のアルバムを発売できて満足している。そして俺はさらに世界をツアーするつもりでいる。うまくいけば、日本にも行けるかもしれないな! 俺は、すでに驚くべきに場所に行けて幸せだ。俺の使命は、できるだけ遠くに俺の音楽と愛を広げることなんだ!

(※)ノッティンガムのフリー(無料)パーティ集団。1989年に発足され、英国最大規模となったフリー・レイヴでは、当局が軍をもって鎮圧させたほど。かずかずの伝説を残している。のちにレーベルも運営して、英国中部/北部のディープ・ハウス・シーンの拠点となった。



野田努