Home > Reviews > Album Reviews > Cobblestone Jazz- The Modern Deep Left Quartet
スティーヴ・リードが死んだ。ガンとの闘病の末、息をひきとった。享年66歳。あの激しいドラムがたまらなく好きだった。
スティーヴ・リードはブラック・ジャズを陰から支えたドラマーで、アポロシアターのスタジオ・ミュージシャンとしてキャリアをスタートしている。ソロでのヒットには恵まれなかったが、ジェイムズ・ブラウン、ジョン・コルトレーン、マイルス・デイヴィス、サン・ラー、フェラ・クティなどなど、さまざまなバンドで活躍し、最近ではフォー・テットとも競演していた。1975年にリリースされたリーダー作『Rhythmatism』は名盤で、フォードからカーター政権に移るアメリカに激しいドラムが叩きつけられている。レアグルーヴとは彼のグルーヴのことだった。オバマ政権の誕生も彼の尽力なしには実現し得なかっただろう。謹んで故人の冥福を祈る。
10代の頃はよくジャズを聴いた。背伸びするにはちょうどいいジャンルだった。テクノはもちろん聴いていたが、12インチを買ってDJをはじめるまではジャズを聴くことが多かった。ジャズのなかで抜きん出て好きだったのが、マイルス・デイヴィスだ。「破壊せよ!」と自分に命じたのはセックス・ピストルズではなく、マイルスだった。とくにエレクトリック期のマイルスに強く惹かれた。何をやっているのかよくわらなかったが、そこにはあらゆる音楽があった。アブドゥル・マチ・クラーワインによるサイケデリックなジャケットにも圧倒され、マイルスの想像力が怖かった。
20歳くらいの頃だったと思う。リットーから出版されていた雑誌『Groove』で"マイルス・デイヴィスの大いなる遺産"なる特集が組まれていた。マイルスの足跡をたどりながら、当時のクラブ・シーンにおけるマイルスの影響がうかがえるアーティストを紹介したものだった。アズ・ワンやスクエアプッシャーをはじめ、オウテカ、フォー・テット、セオ・パリッシュまでもがそのなかで紹介されていた。90年代のテクノとともに70年代のエレクトリック期のマイルスを軸とするルーツ・ディスクが選盤され、ハービー・ハンコックやゲイリー・バーツから、ゴングやマグマ、ヘンリー・カウやロル・コックスヒルまでもが並べられていた。当時、ジャズとテクノを聴いていた自分にはぴったりの特集だった。この号を参考に、レコード屋を巡っては、ジャズやレアグルーヴを掘り進めた。ファラオ・サンダースやスティーヴ・リードに出会ったのもこの頃だ。そして、ブラック・ジャズを聴きこむなかで引き当てた1枚が、〈コブルストーン〉から出ていたノーマン・コナーズの『Dark Of Light』だった。
ノーマン・コナーズはサン・ラーやアーチー・シェップとの共演でも知られるジャズ・ドラマーで、後にディスコ・プロデューサーに転向し、多くのヒット曲を残している。彼がプロデュースしたスターシップ・オーケストラは、セオ・パリッシュもよくかけるダンス・クラシックの1枚である。そして〈コブルストーン〉とは1972年に〈ブッダ〉のジャズ部門としてスタートし、後の〈ミューズ〉の母体となったレーベルである。マイルスの門下生ともいえるミュージシャンたちがリリースをしているが、『Dark Of Light』ではハービー・ハンコック、セシル・マクビー、スタンリー・クラーク、エディー・ヘンダーソンなどなど、蒼々たる面子が集結し、時代の熱い息吹を響かせている。
レーベル名であるコブルストーンとは、当時ニューヨークの街路に使われていたレンガのことであり、〈コブルストーン〉のレコード盤のセンターラベルには"石畳"がプリントされている。つまり、コブルストーンのジャズとはこのことなのだ。
モントリオールではなくヴィクトリアで結成されたコブルストーン・ジャズは、2002年にデビューするや否やメディアから注目を集め、次々とヒットを重ねていった。2006年に〈ワゴン・リペア〉からリリースされた「India In Me」は、間違いなくゼロ年代を代表するテクノ・クラシックの1枚だろう。
3年ぶりに発表されたセカンド・アルバム『The Modern Deep Left Quartet』で、彼らはとてもリラックスした演奏を展開している。とても落ち着いている。まるで政治的な無風状態をあざ笑っているかのようだ。
メンバーはマシュー・ジョンソン、ダニエル・テイト、タイガー・デュラに加えモールが復帰し、カルテットの編成にもどり、前作『23 Second』の延長上でさらなる洗練を追及している。アット・ジャズの『Lab Funk』にも近いアプローチだ。もともとがジャズ・ミュージシャンであり、ミューテック・ミュージック・フェスティヴァルによってテクノに転向したのが彼らである。4人はミュージシャンとしてのエゴを葬り去って、ハウス・ミュージックにおける調和を目指したのだ。
先行シングルの「Chance Ep」は穏やかなディープ・ハウスだった。そしてアルバムはモダン・フュージョンの大傑作と言えよう。これも"マイルス・デイヴィスの大いなる遺産"の1枚である。
マシュー・ジョンソンの師匠であるホアン・アトキンスはかつてこう言った。「Jazz Is The Teacher」と!
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