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Jeb Loy Nichols

Jeb Loy Nichols

Long Time Traveller

On-U Sound / Beat

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野田 努   Jul 21,2010 UP

 こういう音楽を欧米ではときに"アダルト・オルタナティヴ・ポップ"と呼ぶ。ジェフ・バックリーやトリ・エイモスのような、深みのある知性と言葉を持った歌手たちのことを指すらしい。ニック・ケイヴだって入るだろう。曽我部恵一はあと5年、七尾旅人も10年後にはそうなっているかもしれない。やけのはらは......10年後も「still young」と言うのだろうか。わからないが、僕はこの"アダルト・オルタナティヴ・ポップ"という言葉が気に入った。若くして"オルタナティヴ"でいることはそう難しいことはないが、大人でそれをやるのは容易ではない。初期衝動なんてものをとっくに忘れている人間が人生に対してなおも挑戦的であろうとするのは、それなりの代償とパワーを要するものである。

 ジェブ・ロイ・ニコルズの人生はたしかに"オルタナティヴ"である。1979年、10代のときにテキサス州のサンアントニオでセックス・ピストルズを見た彼は、パンクを求めてニューヨーク行きを決心する。ニューヨークでははからずともアリ・アップやネナ・チェリーらと知り合い、レゲエとヒップホップに心酔、そしてこれをきっかけにニコルズはロンドンへと移住する。
 ロンドンではエイドリアン・シャーウッドと共同生活を送るが、その後も放浪好きはおさまらず、ヨーロッパを旅し続けている。
 1990年に彼は仲間といっしょにバンドを結成して最初のレコードを発表している。カントリー、フォーク、そしてレゲエがブレンドされた作品だったというが、まさにその後の彼の音楽の青写真である。
 ニコルズがソロ・アルバムを出すのは1997年のことだった。それはブルースとレゲエの混合で、セックス・ピストルズを見てから18年目のソロ・デビューとなった。

 彼が最初に世間の注目を集めたのは、2000年に〈ラフトレード〉から発表されたセカンド・アルバム『ジャスト・ホワット・タイム・イズ・イット』だった。ジャマイカのスティーブン・スタンレーのもとで録音されたこのアルバムは、ニコルズ自身の手による素晴らしいアートワークとともに(彼は〈プレッシャー・サウンド〉の数多くのジャケを手掛けている)、彼のカントリー&レゲエのセンスを極めたものとなった。あるいは、昨年発表した7枚目のアルバム『ストレンジ・フェイス・アンド・プラクティス』ではダウンテンポのジャズやバラードを披露し、彼のファン層を広げている。
 
 通算8枚目となる新作『ロング・タイム・トラヴェラー』は旧友エイドリアン・シャーウッドのプロデュース&ミキシングのもと、〈On-U〉からのリリースとなった。ニコルズの真骨頂であるカントリー&レゲエが実にヌケの良い音で、心地よくレイドバックした演奏とともに展開される。
 バック・バンドにはスタイル・スコット(ダブ・シンジケート、ルーツ・ラディックス)やスキップ・マクドナルド(ダブ・シンジケート、タックヘッド)といった〈On-U〉ではお馴染みのベテランが参加している。グレゴリー・アイザックスを彷彿させるニコルズの歌は、人生の温かさと冷たさや子持ちの親に向けた言葉を綴り、あるいは孤独や恋について歌う。シャーウッドは年季の入った柔らかいミキシングで、ニコルズの魅力的な声を見事にサポートしている。

 レコード店に入って、もしこのアルバムが店内で流れていて、レゲエ好きな人なら間違いなく買うだろう。ソウル・ミュージックが好きな人、カントリー&ウェスタンが好きな人の3人にひとりは気にかけるだろう。僕? 聴いた瞬間に好きになったよ。ただし、もしこの音楽が"オーガニック系"などと括られていたら、間違いなく気にもとめなかったろうな......。

野田 努