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Nicki Minaj

Nicki Minaj

Pink Friday

Cash Money Records / Universal Motown

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野田 努   Dec 16,2010 UP

 アートワークが物語っているとも言える。結局のところ彼女は何者なのだろうか、『オブザーヴァー』が「お茶を濁したアルバム」と評している通りの内容だ。そしてもしこの言葉にネガティヴな含みがあるとしたら、期待の裏返しでもある。よほどのへそ曲がりでもない限り、人は彼女のデビュー・アルバムを楽しみにしていた。より多くの人に愛される女性ラッパーの登場......なのだが、しかし、彼女はいったい何者なのかよくわからない。ラッパーたるものおのれの真実の魂を見せるものではないかという意見を逆なでるように、ニッキー・ミナージュはそこで笑っている。

 ドレイクの『サンク・ミー・レター』収録の"アップ・オール・ナイト"やリアーナの"レイニング・メン"でフィーチャーされ、それからカニエ・ウェストの"モンスター"で「まずはあなたの脳みそを食べるわよ」とラップした、トリニダード・トバゴ出身ニューヨーク育ちの26才のバービー人形、その容姿ゆえにリル・キムと、そのユーモアのセンスゆえにミッシー・エリオットとたびたび比較されるラッパー。そのいっぽうで三田格も書いていたように、『インタヴュー』誌において「人生は必ずしもセックスアピールに支配されない」と語り、複数のエゴを演じるラッパー、虚構のなかの"ラッパーを演じるラッパー"でもある彼女の、これはメインストリームにおけるデビュー・アルバム『ピンク・フライデー』だ。

 繰り返そう。好戦的な"マッシヴ・アタック"で脚光を浴び、アニー・レノックスのサンプリングによるバラード"ユア・ラヴ"が爆発的なヒットとなって、彼女は"2010年の顔"である。彼女には多彩な"声"という武器があるが、やはり何と言ってもそのユニークな点は"2010年の顔"となったいくつも"顔"だ。それは彼女いわく"原宿バービー人形"であり、コミックの主人公であり、あるいまたゲットーの苦労人のようでもある、彼女の正体不明な、まとめようのないエゴである(彼女はさまざまなアクセントも使い分けているらしい)。例えば、エミネムをフィーチャーした"ローマンズ・リヴェンジ"では口汚いハードコアなビッチを演じ、リアーナの声を借りた"フライ"では美しいバラードを見せている。ビートもライムもM.I.A.......としか言いようのない"ディド・イット・オネム"という曲もある。

 ニッキーのアルバムを聴いていると、時代の変化を感じる。『ピンク・フライデー』は自分のソウルを見せる作品ではない。彼女のアイデアを見せるアルバムである。それは「本物の俺や私」という一次元的なリアリズムの時代の終焉をほのめかしている。まあ、リアリズムはいつだって強いので、終わることはないだろうけれど......だが、これはいわば80年代のニューウェイヴ的な感性の復権のひとつにも思える。ドレイクが出てくる"モーメント・フォー・ライフ"は夢見るシンセ・ポップで、カニエ・ウェストがしゃしゃり出てくる"ブレイジン"は、ニューウェイヴ風メロドラマにおいて彼女の早口ラップを披露する。"ディア・オールド・ニッキー"では、おそらくもうひとりの自分に語りかけているのだろう。しかしもうひとりのニッキーさえもどのニッキーなのかわからない。

野田 努