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野田 努   Dec 24,2010 UP
E王

 これは10ccとエールと......要するにソフト・ロックのモダン・ヴァージョンだ。ヴォン・アイヴァーをはじめ、その仲間たち(ソリッド・ゴールドのザック・クールターとアダム・ヒューバート、ディジスタのライアン・オルソンなどなど......)、総勢20人以上にもおよぶメンバーによる新しいプロジェクト、ゲイングスのデビュー・アルバム『リレイティッド』だが、そういえば昨年のいま頃はヴォルケーノ・クワイアーのデビュー・アルバム『アンマップ』をよく聴いていた。ヴォン・アイヴァーと言えば雪に埋まった山小屋のイメージがあるのでこの季節に似合うと言えば似合う......のであるが、ゴドレー&クレームの"クライ"がカヴァーされているように、彼らが参照しているであろう10cc――フランク・ザッパとドゥー・ワップとのブレンド――を思えば、ある種の冗談というものがこの音楽にはあるはずなのだ。ゲートホールドのジャケを開けば、そこには劇画タッチの絵でメンバーらしき連中の滑稽な姿が描かれていて、まあ、この音楽がシリアス一直線ではないことを自ら明かしている。"ノー・スウェット"という曲にいたっては、"アイム・ノット・イン・ラヴ"そのものだ。が、しかし......10ccの"アイム・ノット・イン・ラヴ"というスウィート・ラヴ・ソングの徹底的なパロディ/ギャグを、深刻な愛の歌であると受け取ってしまうわれわれ日本人としては、このアルバムにさりげなくちりばめられた違和感、ノイズ、齟齬感といったものもフェンダー・ローズやサックスの甘い響きのなかで消してしまうかもしれない。

 この際それでもいい。南アフリカでは英語がわかっても、アメリカのギャングスタ・ラップの演技という文化が理解されずに、それを本気でやられてしまっているらしいが、それよりはマシだ。いや、それに何回聴いてみても、これは美しくて、ソウルフルで、巧みなアルバムなのだ。ソフト・ロックのパロディをやっているつもりが、ついつい真剣になってしまった......そんな演奏のようである。スタイリスティックスを彷彿させる70年代のスウィート・ソウル・ミュージックのファルセット・コーラス、それがニューウェイヴ的な安っぽいリズムボックスと美しいジャズの演奏に混じっている。ザック・クールターとジャスティン・ヴァーノン(ヴォン・アイヴァー)ふたりの高音のヴォーカリゼーションは充分に魅力的で、とくに"クリスタル・ロープ"におけるふたりのコンビネーションは頂点のひとつだ。"ザ・ビートダウン"のような遊びの曲もあるし、ニューウェイヴ調のシンセ・ポップスの"フェイディッド・ハイ"、スローテンポな"クライ"のカヴァーもユニークだ。マイゼル・ブラザースがIDMスタイルをやったような"ザ・ガウディ・サイド・オブ・タウン"にも舌を巻く。ソプラノサックスとローズ・ピアノが魅惑するメロウな"スパニッシュ・プラチナム"も良い。それでも圧倒的なのは最後の曲"ザ・ラスト・プロム・オン・アース"だ。甘ったるい生クリームがどっぷりと載ったショートケーキのような、これはハロルド・メルヴィン・アンド・ザ・ブルー・ノーツのアンビエント・ヴァージョンである。

 上質なラウンジ・ミュージックとも言えるが、『ムーン・サファリ』のようなハウス・ミュージックとの繋がりは持たない。これはアメリカのオルタナティヴ・ロック・バンドによるラウンジである。そう言われても困るほどやっかいな音楽で、間違いなく素晴らしい。

野田 努