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Siriusmo

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三田 格   Apr 21,2011 UP

 東北大地震の影響でアマゾンの倉庫から出荷がスムーズに行われないとは聞いていたけれど、なるほど直後に注文したCDがいくら待っても届かない。ぜんぜん来ない。ついでだと思って一緒に注文したアニカンの秋山澪特集はすぐに届いたのにモーリツ・フリードリッヒのフル・アルバムは陰も形も表わさない。噂ではCDのプラ・ケースが全部割れたとか、アマゾンにわりを食らっていた店がここぞと売り上げを伸ばしているとか、時期的にも想像は悪い方にしか向かわない。そして、そろそろ2週間が経とうという頃にアマゾンから料金を払って下さいという通知メールが。......そ、そんなものはとっくに払っているじゃないかと抗議の電話をかけようと思ったところ「回線が非常に込み合っているので問い合わせはメールで」とかなんとか。そこでお金はすでに払っていることを伝えると現金での返却はできないのでその分はポイントだかなんだかに振り返るから改めて料金を払えばCDを発送するという解答。えー、なんだよ、それってどうなってんだよ......というやり取りが続いたあげく、結局、一度、注文をキャンセルして再注文すれば改めてお金を払わなくてもCDを発送するけれど、在庫が一点しかないために、もしも、キャンセルしてから再注文するまでに誰かが先に注文をすれば、もう1枚取り寄せるまでにさらに10日ぐらいは待つことになるという......。要は賭けですよ......と。仕方が......ない。少しはギャンブル体質がなくもない僕としては、その賭けにのるしかないじゃないか......

 というわけで、これも二次災害というやつなのか、発売から1ヵ月以上遅れの紹介となってしまいました。モードセレクターのレーベルから本格デビューとなったエレクトロ・ディスコのジリモウスモー(=「憎い」)。久々に精神性も希薄な打点主義のダンス・ミュージック。
 ダフト・パンクの楽観的なリズム運びに神経症的なアクセントを組み合わせたスタイルはボーイズ・ノイズやハウスマイスターがドイツで展開していた流れとそう違うものではない。これにダブステップを取り入れたり、ブレイクを多用する手法はモードセレクターやスウィッチとも近しく......と書いてしまうと何も新しいところはないようだけれど、押し引きの加減が絶妙で、流麗なメロディを小出しにしながら滑らかに展開していく部分を併せ持つことで、よりビート・ミュージックとしての快楽を明確にしているといえる。ビート、ビート、ビート......あくまでもビート。いわゆる凝ったリズムとかそういうものではなく、基本的には低俗なディスコ・リズムに過ぎず、それをなんとかして飽きることなく聴かせる工夫が縦横に凝らされている。そう、踊れればなんでもよかった日々が蘇える。ロック・ミュージックからビート・フリークへと寝返ったセカンド・サマー・オブ・ラヴの初期衝動を。
 あー、それにしても薄っぺらい。ダフト・パンクよりも神経症的なシンセサイザーのリフが楽しい"バッド・アイディア"、デンデコデンデコな"ラス・デン・フォーゲル・フライ!"にタイトル曲では実にファンタジックで軽快なモード、どこかYMOな"イデイロギー"とか"ナイツ・オフ"にデス声とロボ声を折衷したようなうめき声が暴れる"ピーヴド"と、あんまり聴いているとマジでバカになりそう。先行シングルからまったく落ち着きのない"ジリマンデ"やいかにもドッチェラントな"フィード・マイ・ミートマシーン"が採録されているのはCDだけで、アナログとCDでは収録曲がかなり異なっている。後悔したくない人はどちらも買わないことをお奨めします。

 驚いたのはイヴィル・マッドネスでピタのレーベルに移ってリリースされた4作目『スーパー・グレート・ラヴ』はクラウトロックに捉われていた部分はあらかた払拭され、ほとんどエレクトロ・ディスコのユニットとして再生してしまった(前作は『カフェ・シカゴ』)。いまの気分のどこを探ればこんなシンセ-ポップが有効なのかと思いつつ、"カフェ・アインドホーエン"や"Brudubillinn"(読めない)と聴き進むうちにこれもまた妙に明るい気分に(理性ではありえねーと思う半面、この大袈裟なタイトルは本気だということを理解したり)。
 しかし、よくよく聴いていると80年代前半に山とあふれていたエレクトロニック・ポップとはやはりどこかが違うし、エレクトロやディスコの模倣とも言い切れない。一番、似ているなーと感じたのが電気グルーヴ『イエロー』で、それこそお蔵入りしていた石野卓球のソロ・アルバムですよとかいわれて松山晋也に「めかくしプレイ」でも仕掛けられたら、けっこう信じてしまったかもしれない。卓球の大味なフレーズと細かいところが共存している辺りもダブる気がするし。そして、どうしてそういうことになるのか、4曲目には"イザベル・アジャーニ"と題された爽やかなトランス・エレクトロが収録されている。これは心穏やかではない。イメージとまったく違うし、アジャーニといえばヴィクトル・ユゴーの次女を演じたフランソワ・トリュフォー監督『アデルの恋』で狂気に捉われた姿が世間にアピールしたはずで、アンジェイ・ズラウスキー監督『ポゼッション』でアジャーニがクロイツベルクの改札から出て来るなり一分間ほど強烈なヒステリーを起こす場面があって、そこに行って、アジャーニの横っ面を引っ叩いて黙らせるのが僕の長年の夢なんだから......って、そんなこと可能なわけがないんだけど......。
 また、〈エディション・メゴ〉の傘下にはエメラルズからジョン・エリオットがA&Rを務める〈スペクトラム・スプールズ〉というアナログ・オンリーのレーベルが発足したばかり。カタログ1番はエメラルズと同じくオハイオからマシュー・マレーンによるファブリック名義のファースト・アルバムで、マレーンはこれ以前にマーク・マッガイヤーやサーストン・ムーアがソロでアコースティック・ギターのシリーズを出していた〈VDSQ〉から『ヴォリウム4』を担当したのみというニュー・フェイス。フィールド・レコーディングスやミュージック・コンクレートの技術も駆使しつつ、ギタリストのアルバムとして仕上げられた『ア・ソート・オブ・レイディエンス』はいってみればひとりエメラルズ。ふわふわとした質感を基調とした軽いドローンがだらだらと続くのみ。もう少し緊張感のあるパートがあってもよかったかなと。
 2番のビーマスク(蜂仮面)はオフィシャルのセカンド・アルバムに当たり、ギフト・テープスから2010年にカセットでリリースされていたもののアナログ化。デビュー作『ハイパーボーリアン・トレンチタウン』は〈ウイアード・フォレス〉から09年にリリースされていたそうで、しまった、チェックしておけばよかったというほどこれはよく出来ている。ベースになっているのはやはりドローンで、かなり混沌としたイメージを秩序立てて聴かせる構成力とも相俟ってそうは簡単に骨組みを表わさないものの、一貫したトリップ・イメージは最後まで崩さない。いわゆるプログレッシヴ・ミュージックとは発想自体に大きな違いはないはずなのに、過去の様式性には起源を持たない独特の実験精神に裏打ちされた感覚が全体を包み込み、ダブル・レオパーズやイエロー・スワンズといったゼロ年代に特有の覚醒したドローンからザ・プリゼントやサン・アローへと向かったポップ=商業的な流れとはまったく違う導線を組み立てつつあるという感じ。もしくはこの幻想的でどこまでも両義的な価値観に跨ろうとする欲の深さはエレクトロニック・ヴァージョンのタレンテルと言い換えてもいいかもしれない(ファブリックはいまのところエメラルズ帝国の裾野を広げるコマのひとつだろうけれど、ビーマスクにはもっと違う役割が今後は発生してくるかもしれない)。
 〈スペクトラム・スプールズ〉は毎月2点のリリースを計画しているそうで、このレヴューがアップされる頃には早ければ2回目のリリースが到着している予定。


*4月24日23時からヴィンセント・ラジオのレギュラー番組で松沢呉一との対談を放送します。

三田 格