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Bjork × Dirty Projectors

Bjork × Dirty Projectors

Mount Wittenburg Orca

Domino/ホステス

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橋元優歩   Nov 14,2011 UP

 合唱の盛んな国では、合唱祭の季節になるとタクシー運転手までが乗客とその話題で盛り上がるらしい。エストニアだったかハンガリーだったか、かつて合唱指揮者の松下耕がそのように話していたのを覚えている。どういった演目が主流なのかはわからないが、なかには20世紀なかば以降の作品に限定した大会もあるようで、当時リゲティやトルミスに憧れた筆者はその熱く華やかな様子を夢に描いていてもたってもいられず、早朝からひとりで特訓した。一緒にやってくれる人などいないが、めげずにシェーファーの『ガムラン』をひとりで四声分練習したりもした。もちろん声域には限界があるし、ひとりでは和音も出せず、当たり前のことだがなんにもならなかった。受験勉強のあいだも、まとまった人数がいなくてもいい、『ガムラン』みたいなことを超少人数で、もっとポップに、そして日本語詞でやれたらおもしろいな、というようなことばかり考えていた。当時の筆者に誰かMTRの存在を教えてくれる大人がいれば、もしくは相当の歌い手が2、3人いれば、もしかしたらダーティ・プロジェクターズをやっていたかもしれない......。

 そうしたわけで、2007年に初めてダーティ・プロジェクターズを聴いたとき、筆者にはまずなにより羨望と嫉妬の感情が沸き上がったのだった。やられた! それは私もやりたかった。結局はそんな才能も行動力もなかったわけだが、かつて頭のなかにイメージしていた音が、その年発表の出世作『ライズ・アバヴ』ではそのまま鳴っているかに思えた。ブラック・フラッグの『ダメージド』を1曲1曲「リイマジニング」したという、コンセプトからして奇矯な『ライズ・アバヴ』。ポップで自信たっぷりで、その頃活況を呈していたブルックリンの無邪気な実験主義たちの気風を象徴するような作品だ。つづく2009年の『ビッテ・オルカ』では名実共に第一級のインディ・バンドとしての存在感を示したと言えるだろう。ビョークが彼らに惚れたのはよくわかる。本作はチャリティ目的で生まれた企画がCD化されたもので、2009年には同曲目のコンサートを、2010年にはそのスタジオ・ヴァージョンのネット配信をおこなっている。ビョークとのあいだに、相互に素直なリスペクトがあることをしのばせる演奏だ。別のチャリティ・コンピで見せたデヴィッド・バーンとのコラボでも同じような志の高さを感じた。まったく有意義な、そして音楽に恥じることのない共演であることは間違いない。

 野原でつかまえてきたうさぎのように粗暴で自由で抑制のきかない女声。が、バシバシとぶつかりあいながら危うく構成するハーモニー。もともとソロ・プロジェクトであったとはいえ、ダーティ・プロジェクターズといえばまずこれだ。和音の進行が首輪のように、無軌道に跳ねるうさぎたちを辛うじて束ねる。冒頭の"オーシャン"はとても印象的な一曲である。ディジュリドゥか何か、奇妙に安定しない低音が持続して緊張感を高めなか、あの地声っぽいコーラスが強烈な個性をもっておもむろにはじまる。母音のみの歌唱でひとしきり展開するとこの曲は幕。すぐに分散和音で伴奏のように歌いはじめられる"オン・アンド・エヴァー・オンワード"へと移り、こぢんまりとしてコミカルなストリングスと女声パートの絡みの上に、いよいよビョーク登場となる。暁光のようにくっきりとまぶしく、ビョークの声には横綱のような存在感がある。テーマを受ける形でまずはワンフレーズ。次第にコーラスとのあいだに編み目が生まれていく様子がじつに楽しそうでわくわくする。つづく3曲めではデイヴ・ロングストレスがリード・ヴォーカルを執り、コーラス隊は作品中もっとも難易度の高そうなテクニカルな演奏を展開する。正確さとめちゃくちゃぶりの間を縫うように、相手を翻弄しながら細かくパスをつないでゴール。そんなイメージの歌い方だ。ほとんど生録音というから舌を巻くが、なるほど生録音でしか出せない「アニマート」な作風である。6曲目のバラード"ノー・エンブレイス"もいい。もちろん声メインだが、細く入っているバッキングのエレキ・ギターがなんともよく効いている。ブルージーで、ソウルフルで、わずかにジャマイカや南米っぽいニュアンスをもたせたデイヴのフレージングもぴしりときまっている。実質これがダーティ・プロジェクターズの作品なのだということがよくわかるだろう。ビョークはあくまでゲストであり、ちょうどハーキュリーズ・アンド・ラヴ・アフェアのデビュー作におけるアントニー・ハガティといったところ。5曲目や7曲目でプリマドンナの役割を見事に果たしている。自作に圧倒的に渦巻く気負いや気迫から少し解き放たれて、リラックスして音楽を楽しんでいる様子だ。おそらく彼らの音やキャラクターのコスモポリタンな佇まいにもよく共感できるのだろう。これほど巨大な存在になりながらアーティストとしての本懐を失わず、また貪欲に新しい音に接近していく彼女の姿がはっきりと刻まれ、記録されている。ビョークのファンにも貴重な1枚だろう。

橋元優歩