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ポール・ウェラーの新作がまさかのクラウトロックで、関心していいのか呆れていいのか。しかも"クリン・クラン"という曲名があったので、思わず確かめてしまったけれど、やっぱりクラフトワークのカヴァー......ではありませんでしたw(クラウトロックという呼称を蔑称だと思っている人と、むしろある種の尊称だと思っている人の両極端が日本にもイギリスにもいるようですが、それはファウスト『4』にまつわるエピソードを知っているか知らないかの違いに由来するようです。詳しくはマウス・オン・マース『パラストロフィックス』のライナーに書いたつもりなので、興味のある方は国内盤を手にとって揺すったり振ったり......しても何も起こりません)。
そして、クラウトロック・リヴァイヴァルの先頭を突っ走るエメラルズにピタっとつけているのがミネアポリスの3人組で、昨年、これまでリリースしてきた3本のカセットから日本のワンダーユーがCD化した編集盤『プラトーズ』から10ヵ月、ついに正式なファースト・アルバムが! これがまあポール・ウェラーと同じで......ということはないんだけど、いきなりオープニングのタイトル曲からクラフトワークかと思うような(正確にはそのマネをしていたヴォルフガング・ライヒマンみたいな)空飛ぶエレクトロ仕様で、杉田元一が聴いたら昇天したまま戻ってこないのでは......と思わせた"E・ハーモニー"のようなギター・ユーフォリアの面影がなく、少し焦り気味。次もまた、ひたすら天を駆け巡るようなシンセサイザーがひらひらと鳴り続け、完全に軌道修正したのかと思い始めたところでギター・サウンドが戻ってくる......ものの、結論からいうと"E・ハーモニー"を超える曲はなく、全体的にはやはり路線を少し変えた部分に聴きどころは多い。シカゴ・アシッドまでやってるし。
クラウトロックの特徴というのはブルーズに由来するロック・ミュージックよりも、どこか人間不在の自然崇拝めいた感覚があることで、アメリカのアンダーグラウンドからそういうものが出てくるということは、西欧的なヒューマニズムの基礎といえるキリスト教的な価値観が揺らいでいる証拠だとも考えられる(ドイツというのはローマに征服された際、キリスト教に改宗したフリをしただけで、実際には自然崇拝が残った国だといわれている。ヒトラーのつくったアウトバーンにも仕事が終わったら一刻も早く自然のなかに戻れるという意味合いがあった)。"コズモ・キャニオン"のような曲を聴いていると、複雑な人間関係のなかから生まれてくる様々な感情をすべて放棄して、ただ自然の中に吸い込まれていくことをよしとするような美学が横溢している。そして、エンディングに向かって、こうしたムードはとにかく増大していく。なんの迷いもない。あまりに屈託がなく、それこそスケール感だけをいえばエメラルズなど足元にも及ばない。スピリチュアライズドにやって欲しかったのは、むしろ、こういうことだったのではないだろうか......なんて。いや、しかし、徹底している。
それでは、マーク・マッガイアーの来日まで1ヶ月を切ったところで、クラウトロック・リヴァイヴァルについて少しおさらいをしておきましょう。90年代にもステレオラブやライカなどクラウトロックを前面に押し出して、人気のあったバンドはいたし、ヴァス・ディフェレンス・オーガニゼイションやエコーボーイのようにぜんぜん人気の出ないバンドもいた。また、プライマル・スクリーム『ヴァニシング・ポイント』やオズリック・テンタクルズ『キュリアス・コーン』(共になぜか97)のように部分的に取り入れていた人はもっといたし、そもそもドイツでロックをやっていれば、そのままでクラウトロックだったとも(これについても詳しくはマウス・オン・マーズのライナー参照)。
現在のリヴァイヴァルといえる流れはどこからはじまったのか。ひとつには、04年にやたらとジャーマン・ロックの古典がどかどかと再発されたことが挙げられる。これに触発されたのか、タッセル(現アープ)やグレイヴンハースト、あるいはカリブーやスパンク・ロックのミックスCD『ヴワラ!』にも影響は認められる。しかし、再発ブームが起きる直前にもそれなりに動きはあって、細かく拾えばDAFに移る前のピクセルタン「ビーツ・プリペアード・フォー・トーチャー」やスフィアン・スティーヴンス『エンジョイ・ユア・ラビット』が01年、自分でもかなり驚いたので、よく覚えているのがデス・イン・ヴェガスが『スコーピオ・ライジング』(02)で思いっきり方向転換したものがクラウトロック直球だったことと、02年から03年にかけてフジヤ&ミヤギやエンペラー・マシーンといったディスコ・ダブからの参入が続いたこと。この辺りが震源地だったことは間違いがない。アメリカのロック・バンドでは前述のタッセル『クリン・クラン』(04)やクラウドランド・キャニオン『レクイエム・デル・ネイチャー』(06)って、どっちもタイトルがそのままだし、同じくアメリカのダンス・カルチャーからはジョー・クラウゼルがマニエル・ゲッチングのリ-エディット集(アンビエント本P72)をリリースしたことはかなり驚きだったし、同じようにクラウトロックのリ-エディットを手掛けていたハッチャバック『カラーズ・オブ・ザ・サン』(08)には"エヴリンシング・イズ・ノイ"というオリジナル(?)も(イジャット・ボーイズのミックスCD『デス・ビフォア・ディステンパー3』もかなりクラウトロック攻め)。以後はもう、リンドシュトローム&プリン・トーマス、ドム・トーマス、ブルース・コントロール、コズモナウト、ディムライト、タイム&スペース・マシーン(リチャード・ノリス)、ファクトリー・フロアー、イヴィル・マッドネス、プラネットY、マスター・ミュージシャン・オブ・ブッカケ......ときて、昨年末にリリースされたポーティスヘッドのシングル「チェイス・ザ・ティアー」でさえ、そんなようなものだったからなー。そう考えるとポール・ウェラーもクラウトロッキンしちゃうかもなー。いやいや。
三田 格