Home > Reviews > Album Reviews > Annapurna illusion- Annapurna Hellvision
アマゾン出身の謎の覆面ミュージシャンという当初のコンセプトは、やっぱり覆面着けてライブするのは面倒だからという理由でいつの間にか何処へやら。ハイウルフ(High Wolf)ことマックス・プリモルトとは一昨年、昨年と(そしておそらく今年も......)何の因果か、ツアーの日々を共ともに過ごしているので、近年の彼のライヴ・パフォーマンスにおける成長は誰よりも近くで(近過ぎるよ)見てきた。2010年に彼が日本に訪れた際、サポート・バンドとして借りだたされ、多くのジャムを楽しんだものの、果たしてハイウルフはこれでいいのだろうかと疑問が残った。
2011年のアメリカ・ツアーを一緒にやったとき、ロスのランドスライドという高台にあるスケート・パークで僕らの前に彼が当時サン・アロー・バンドのメンバーであったバーレットとディープ・マジックのアレックスという同じような即席バンド・セットで演奏しているのを見て、その疑問は確信へと変わった。こりゃダメだ。演奏終了後に近隣住民からの騒音の苦情により駆けつけたロス市警により主催者が罰金を課せられたため、トリであった僕のバンドの演奏は中止、僕のやり場のない怒りはマックスへ向けられた。毎回、サポート・メンバーの演奏に振り回されているハイウルフは見るに耐えない、ハイウルフとしてのオリジナリティがまったく出ていないじゃないかと言う僕にマックスはしかめっ面していた。
〈NNF〉周辺の多くのベッドルーム・ミュージシャンはときにライヴ・パフォーマンスが得意ではない。かつてはヒップホップに傾倒していたマックスもトラックメイカーとしての優れたバックグラウンドを持つものの、ライヴではいまだ発展途上であることを自覚していたのか、このときの僕の八つ当たりを彼はシリアスに受け止めたようで、残りのスケジュールでのライブヴをすべてソロ・セットに変更した。僕はまったく意図していなかったが、これは吉と出て、それはなかなか素晴らしいものだった。もちろん、僕も新たな仲間とのセッションは格別である事は充分承知しているが、それがオーディエンスと共有できるとは限らない。本来それは優れたスキルと百戦錬磨の経験に裏打ちされるものであることが多い。
アナプルナ・イリュージョン(Annapurna illusion)はハイウルフの無国籍ハルモニア・ロックとは異なるマックスのダークサイドであり、彼が愛して止まない初期アース(Earth)等などの影響を受けたサウンドはアマゾンの密林で夜を過ごす探検家の悪夢だ。余談だが、ロスからテキサスまでの地獄のドライブ中、ジョイントはなくとも永遠変わらぬ砂漠の風景、トラッカーズ・ピルと不味いコーヒーで無理矢理覚醒状態にしている疲労困憊な僕の状態と最高のシチュエーションで一緒に聴いたアースの3rdはマジで危なかった(運転が)。
この音源のハイライトは、昨年のハイウルフのヨーロッパ・ツアーで彼がベルギーを訪れた際、僕らの共通の友人でもあるシルヴェスター・アンファングII(Sylvester Anfang II)としても活動するヘルヴェット(Hellvete)ことグレンとのコラボレーション、『アナプルナ・ヘルヴィジョン』だ。お気づきの方のいらっしゃるだろうが"ヘルヴェット"はメイヘムのユーロニモスが営んでいたデス・ライク・サイレンスの拠点であるレコード・ショップから拝借しているのだろう(本当はHelveteである)。同じくシルヴェスター・アンファングIIのウィリアムが、マーチテーブルでネクロ・ブラック・メタルだと勘違いして僕らの音源を買っていく連中が家に帰ってから失望するのを想像すると可笑しくって溜まらないと言っていたが、僕はそんな彼らの最高に捻くれたセンスが大好きだ。
ヘルヴェットは近年、よりミニマルなドローンに傾倒しているらしく、クラーク(KRAAK)よりリリースされていたレコードで聴ける彼の素晴らしいバンジョーがないのは少々残念でもあるが、そのラーガ調のドローンでマックスの描く悪夢をより禍々しいものに仕立てあげている。
マックスはあれ以来、ライヴはソロ・セットでこなしているようで、おそらくこの音源はレコーディングという大義名分をかざしグレンの家にしばらく転がり込んでいたのだろう。絶対マックスにたかられたであろうグレンには同情するよ。でも不思議に、マックスは何処か絶対憎めないキャラで、これこそが彼の本当の才能であり、ゆえにロクに金を持たずとも世界中を放浪出来るのである。より多くのツアーを経て成長した彼の演奏を見るのが楽しみだ。
以前、〈グループ・タイテナー(Group Tightener)〉からリリースされたアナプルナ・イリュージョン/ハイウルフのレコードのアートワークを手掛けた際に、これはどう考えてもスプリットじゃないだろう、両方お前じゃねーかという僕の意見に断固これはスプリットであると言い張っていた。マックス、お前マジで最高だよ。
倉本 諒