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Capitol K

Capitol K

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三田 格   Jul 17,2012 UP

 今村昌平監督『ええじゃないか』は観ていないこともあって、映画というものを観ていて、初めて女性の放尿姿に出くわしたのは80年代に公開されたペドロ・アルモドバルの作品だった(どの作品かは忘れた)。その時はスペイン人はそういうことが平気なのかなと思い、実際、その後もそんなシーンを映画で観ることはなかった。流れが変わったのはデヴィッド・フィンチャー監督『パニック・ルーム』である。ほかにもあったのかもしれないけれど、僕にとってはジョディ・フォスターがハリウッド映画の先頭に立って、便器に用を足し始めた。そこからは雪崩を打って、ハリウッド・ミュースたちが便器に座り始め、とうとう来月公開のサラ・ポーリー監督『テイク・ディス・ワルツ』ではミッシェル・ウイリアムスが1本の作品で3回も放尿シーンを展開する(展開する......というか、そのうち1回はプールでお漏らしをして笑い転げているんだけど)。これまでそれが絶対に必要なシーンだと思ったことはなかったものの、『テイク・ディス・ワルツ』では男性との距離感を表現するために仕掛けられたシーンであることは明白なので、心理描写としては有効だし、女性の放尿姿に刺激を感じなくなっている男性(この場合は夫)と同じ気持ちで観てしまうか否かは(男にとって)けっこうややこしい場面ではないかと思ったり......(監督はちなみに女性です)。

 放尿といえば南米に放浪の旅に出ていたクリスチャン・クレイグ・ロビンスンの6作目があまりに変貌を遂げていて驚かされた。キャピトル・Kといえばプラネット・ミューからデビューした当初は、ロック色の強いエイフェックス・ツインか、その後もエレクトロから大きく外れた存在となることもなく、ボーズ・オブ・カナダやアンチコンの同類ということで話は片付くはずだった。

 4年ぶりの『アンデスのダブ』は、しかし、「100%クンビア!」と銘打たれ、曲名にも"クンビアトロニック""クンビア・ミリピーズ(ヤスデ)""クンビア・エスケレトス(骸骨)"といったものが散見できる。もちろん、「100%」のわけがない。自主レーベルらしい実に拙い煽りである。クァンティックロス・ミティコス・デル・リツモ(=神話のリズム)と言い切ってしまうほど「100%」になってしまうのではなく、あくまでもエイフェックス・ツインとカリビアン・サウンドの架け橋になろうとしているようなサウンドである。これまでにエイフェックス・ツインを追って浮上してきた才能のなかで南米の音楽性を吸収しようとしたものにはアモン・トビン(とアトム・ハート)がいたけれど、アモン・アドナイ・サントス・デ・アラウホ・トビン(本名)にインダストリアル的な感性が付き纏っていたのに対し、キャピトル・Kのそれは現地のリズムをヨーロッパの方法論で再構築しようとするもので、基本的に他の地域の音楽性は持ち込まれていない。「クンビアトロニック」などはまさしくディジタル・クンビアである。電子音にもかかわらず、サラサラとした南米の風が吹いているような錯覚に襲われてしまう。

 ンチャカ、ンチャカ......とレイジーに反復されるリズムやセンチメンタルなメロディ。あるいは、そのようにして、どの要素がどれに相当するのか頭のなかで容易に置き換えられる要素を持っていない「クンビア・エスケレトス」や「セヴンス・チャランゴ」。たいていはどちらかのスタイルに偏ってしまうと思うんだけど、最後の最後まで、その均衡は崩れない。大したものである。
 
 フィラスタインとのコラボレイションでも知られるブラジルのDJ、マーガ・ボーがセカンド・アルバム『キロンボ・ド・フツロ』から間髪を入れずにリリースしたリミックス・アルバムも、大半はクンビアに意趣変えがおこなわれている。

全曲試聴→http://soundcloud.com/post-world-industries/sets/maga-bo-quilombo-do-futuro/

 〈モンキータウン〉のコンピレイションにも曲を提供していたフリックステイラーズやある種の先駆者であるジスラン・ポワリエのような中堅もいるけれど、大半がまだ無名の新人で、こちらは全体的に着地点をヨーロッパに求めている。変容を遂げていくクンビアの見本市としてはこの試みも興味深い。

三田 格