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Clams Casino

Clams Casino

Instrumental Mixtape 2

(Self-Release)

野田 努   Jul 18,2012 UP
E王

 言葉のあるなしにかかわらず、音楽は内面の空虚さを埋めるために使われる。クラブ・カルチャーもその代表例のひとつ。週末の夜をぶっ飛ぶことそれ自体が問題なわけではない。問題はハイな夜を終えた、日曜日の朝方の過ごし方にある。

 最近の『NME』の調査によれば......、LAのリル・Bによる"ベースド"、フロリダのメイン・アトラキオンズらによる"クラウド・ラップ"、NYのエイサップ・ロッキーによる"ヒップスター・ホップ"と分けられるそうで、いずれにしても、これらプログレッシヴな(ヒプナゴジックな)ラッパーたちはクラムス・カジノに感謝しなければならない。彼らがいま試みているのは、いわばヒップホップの変異体で、同紙によれば「完璧なまでにメチルモルヒネの毒気で作られたコクトー・ツインズか、さもなければ電子機器で押しつぶされた唱歌隊の音楽」となる。メチルモルヒネがどんなものなのかは知らないけれど、なんとなく想像はできるだろう。先日、レヴューしたスペースゴーストパープもその手の音のキーパーソンのひとりである。昨年、我が国でも評判となった(何故か二木信が気に入っていた)ザ・ウィークエンドもこの男の影響下で生まれたR&Bの変異体のひとつだと言える。

 ニュージャージーで暮らすインターネット・ベースのプロデューサー、クラムス・カジノことマイク・ヴォルプは、昨年無料で流した、彼にとって最初のミックステープ『Instrumental Mixtape』によって評判を広めている。続いて〈トライ・アングル〉から「レインフォレスト(Rainforest )」なる12インチを発表して、その評価を決定的なものとした。
 先月末、クラムス・カジノは彼にとって第二弾となるミックステープ『Instrumental Mixtape 2』をネット上で発表した。アルバムには、エイサップ・ロッキー、ザ・ウィークエンド、マック・ミラーメイン・アトラキオンズリル・Bらに提供したトラック、彼が手がけたウォッシュト・アウト、ラナ・デル・レイ、XVのリミックス・ヴァージョンのためのトラック、それから新曲もひとつ収録されている。『Instrumental Mixtape』は最初は無料配信して、数ヶ月後にはCDになっていたので、今回もある時期までは無料配信して、ある時期になったらCDとなって捨てられる......いや、売られるのだろう。不思議な順番に思えるが、買ってもらうことよりもまずは聴いてもらいたいのかもしれないし、OFWGKTAのように消費文化の秩序に挑戦しているのかもしれない。

 アルバムの最初を飾るエイサップ・ロッキーの"パラス"や"ワサップ"、"ベース"、ザ・ウィークエンドの"ザ・フォール"までは、言われるように「押しつぶされた唱歌隊」のような重苦しさ、一種のホラーめいた緊張感を展開している。6曲目のマック・ミラー"ワン・ラスト・シング"、続くウォッシュト・アウト"アモール・ファティ"から最後14曲目のリル・B"アイム・グッド"まではわりと気持ちよく聴いていられる。マック・ミラー"エンジェルズ"はポーティスヘッドの領域へと、XV"スウェルヴィン"やリル・B"アンチェイン・ミー"などはナイトメアズ・オン・ワックスの陶酔とも重なるかもしれない。"ボーン・トゥ・ダイ"におけるディスコ・パンクめいたノイズとメタリックなパーカッションの再構築も面白い。
 2013年の音を先取りしていると評され、多彩なアーティストとアクセスしながら孤立しているかのようなこのプロデューサーは、同じスタイルにとどまるつもりはないのだろう。が、それでもアルバムにおける唯一の新曲"ヒューマン"では、自らの城に閉じこもる王のように、彼の退廃的なセンスを全開に生かしている。粉々になったギターの単音が宙を舞い、雑巾のように捻られたヴォーカルが徘徊して、ダークサイドのなか息を殺しながらゆっくりと歩くような、お馴染みのクラムス・カジノ・サウンドだ。
 
 虚構な幸せほど不幸なものはないという立場は、この20年代間、クラブ・ミュージックにパラドックスを与え続けている。クラムス・カジノのディストピックな魔法の時間もその発展型である。

野田 努